ベトナムにおける商標譲渡:拒絶される理由と克服方法
ベトナムにおける商標譲渡は、厳格な法定要件に従う必要があり、またベトナム知的財産庁(“IPVN”)による実体審査の対象となります。実務上、商標譲渡は混同のおそれや強行規定への不適合を理由としてしばしば拒絶されます。特に、譲渡人が相互に類似する複数の商標を保有している場合や、より深刻な状況として、譲渡人の商号自体が商標名でもある場合には、課題が一層顕著になります。
KENFOX IP & Law Office は、ベトナムにおける15年以上の実務経験と知的財産保護に関する専門知識を有し、商標譲渡に伴うリスクを詳細に分析するとともに、拒絶を回避し、また拒絶がなされた場合にこれを克服するための戦略的解決策を提供いたします。
1. 譲渡対象商標が譲渡人の商号と紛らわしい、または同一である場合
譲渡対象商標が譲渡人の商号と「同一」または「紛らわしいほど類似」している場合、ベトナム知的財産庁(IPVN)は、商品・役務の商業的出所または特性に関して混同を生じさせるおそれがあるとして、知的財産法第139条第4項に基づき当該譲渡の登録を拒絶する可能性が高いと考えられます。
商号は工業所有権の対象とみなされます。企業名または営業名は、ベトナムにおいて適法な商業活動に使用されている場合、商号として保護され得ます。消費者の混同を防止する観点から、商標が既に保護されている商号と同一または紛らわしいほど類似する場合、商標は保護が拒絶される可能性があります。
この原則に基づき、商標が譲渡人の商号と同一または類似する要素を含む場合、その譲渡は、商品または役務の性質または商業的出所について公衆を誤導するものと判断される可能性があります。そのような事例は知的財産法に定められた禁止事項に該当します。
したがって、商号または会社名の一部を形成する商標を有する権利者との商標譲渡契約を締結する場合には、十分な注意が必要です。知的財産法第139条第4項は「商標権の譲渡は、商品またはサービスの特性や出所に関して混同を生じさせてはならない」と規定しています。
事例:商標「MARCO POLO」が Wharf Hotels Management Limited に譲渡され、同社が Marco Polo Hotels Management Limited の提供するサービスと類似する役務を提供する場合、後者がベトナムにおいて引き続きその商号の下で営業している状況では、公衆は「MARCO POLO」商標の下で提供されるサービスが Marco Polo Hotels Management Limited に由来するものと誤認する可能性があります。これは、商標と商号が市場に併存することによって混同が生じるためです。このため、IPVN が「MARCO POLO」商標の Wharf Hotels Management Limited への譲渡登録を拒絶することは、法的に正当といえます。
推奨対応策:譲渡対象商標と譲渡人の商号との類似性を理由とする拒絶に対して不服申立てを行う場合、以下のいずれかの文書または証拠を提出することが考えられます。
- 事業全体の譲渡証拠:譲渡人が当該商号の下で行っていた全ての事業および商業活動を譲受人に譲渡したことを示す証拠。商標が譲渡人の商号と同一または類似の要素を含む場合、譲渡人は当該商号の下での全事業を譲受人に移転する必要があります。
- 事業登録の修正証拠:譲渡人が、当該商標を付した商品・サービスに関連する事業分野を削除し、その削除が企業登録証明書に反映されていることを示す証拠。これにより、譲渡人が譲渡商標に関連する分野で事業を営んでいないことを確認できます。
- 譲渡人の解散証拠:譲渡契約締結後、譲渡人が解散し、もはや存在しないことを示す証拠。
- 商号変更証拠:譲渡人が譲渡後に商号を変更し、当該商号に譲渡商標と同一または類似する要素を含まなくなったことを示す証拠。この変更は企業登録証明書に正式に記録される必要があります。
これらの文書は、商号と譲渡商標の間に紛争が存在しないこと、あるいは既存の紛争が解消されたことを立証するためのものです。
あるいは、譲渡人が当該商号の下でベトナムにおいて事業活動を行ったことがない、または譲渡後にその活動を停止したことを示す証拠を提出することも可能です。この場合、譲渡人はもはやベトナムで当該商号を商業活動に使用していないため、知的財産法第139条第4項に基づく混同は生じないと考えられます。
その事実を確認する譲渡人による正式な宣誓供述書(Declaration)は、有力な証拠として機能し、IPVN が商標譲渡を登録することを促す上で説得力のある資料となります。これにより、譲渡人の商号に関する権利が成立していないか、または消滅していることが立証され、譲渡対象商標が商品やサービスの性質または出所について公衆を誤導することがないと確証されます。
2. 譲渡対象商標が譲受人の他の商標と紛らわしい場合
譲渡対象商標が、譲渡人の所有に係る他の商標(出願中の商標または商標登録証に基づき既に保護されている商標)と紛らわしいと判断される場合、IPVN は商標譲渡の登録を拒絶する可能性があります。
譲受人が、譲渡人のベトナムにおける商標ポートフォリオ(出願中または登録済みの商標を含む)を十分に精査せずに商標を取得した場合、譲渡対象商標が譲渡人の所有する他の商標と紛らわしいとして、商標譲渡契約は拒絶される可能性があります。
事例:会社Aが会社Bから「ZACOPE」商標を取得した場合を想定します。知的財産庁は、当該譲渡が商品または役務の性質または出所について混同を生じさせるおそれがあるとして、譲渡登録を拒絶する通知を発出しました。これは、会社Bが「ZACOPE」に加えて「ZACOP」や「JACOPE」といった類似商標を引き続き保有しているためです。
推奨対応策:この問題に対処するためには、以下のいずれかの対応が必要となります。
- 譲渡人が所有するすべての類似商標について譲渡申請を行うこと。
- 譲渡人が保有し続ける類似商標に係る商標登録証の消滅を申請すること。
最初の譲渡契約締結後、または IPVN による譲渡拒絶の通知を受けた後に、追加的に類似商標の譲渡交渉を行う場合、譲受人は受動的かつ不利な立場に置かれることになります。その際、譲渡人は追加的な金銭的負担を課す可能性があります。
最適な戦略:商標譲渡契約を締結する前に、以下の措置を講じることが望ましいといえます。
- 譲渡人の商標ポートフォリオを包括的に精査すること。
- 譲受予定の商標と同一または紛らわしいすべての商標について、譲渡契約に含めるよう交渉すること。
この積極的なアプローチをとることで、知的財産庁による拒絶リスクを最小化し、譲渡対象商標が譲渡人の所有する他の商標と競合する事態を未然に防ぐことができます。
3. 譲渡対象商標に、商品の出所・特性・用途・品質・価値等について消費者を誤導するおそれのある要素が含まれる場合
譲渡対象商標に、地理的名称など消費者に商品の出所、特性、用途、品質または価値について誤解を与える可能性のある要素が含まれている場合、IPVN は商標譲渡の登録を拒絶する可能性があります。
事例:「MASSANO Milan」商標について、譲受人がミラノではなくベネチアに所在する場合、譲渡登録が拒絶される可能性があります。商標に地理的表示が含まれているにもかかわらず、当該地域に事業拠点が存在しない場合、消費者を誤導するものと判断される可能性があります。
推奨対応策:かかる異議を克服するためには、事業上の状況に応じて、以下のような裏付け資料を提出することが考えられます。
- 譲渡人と譲受人が関連会社であること(例:同一企業グループの子会社である、または一方が他方の子会社である等)。
- 双方の生産・事業戦略および商標使用の態様が、商品の出所について公衆を誤導しない形で構成されていること。
これらの資料を提出できない場合、商標見本から地理的要素を削除する形で商標登録を修正する申請を検討することも可能です。これは、商標登録証の変更申請という正式な手続を通じて行うことができます。
4. 商標権の一部譲渡と商業的出所に関する混同のおそれ
譲渡の範囲が登録商標に係る商品・サービスの一部に限定される場合、譲渡された商品・サービスと譲渡人に留保される商品・サービスとが混同されるおそれがあります。特に、譲渡対象の商品・サービスが譲渡人に留保される商品・サービスと明確に区別できない場合、この懸念が生じます。
ベトナム法の下では、部分的な商標譲渡が認められています。すなわち、商標権者は、商標登録証に記載された一つの区分内の商品・サービスの一部、または複数の区分に属する商品・サービスの一部について、譲渡を請求することが可能です。
もっとも、商標に係る商品・サービスの一部のみを譲渡する場合、譲渡対象となる商品・サービスは明確に独立していなければならず、譲渡人に留保される商品・サービスと混同を生じさせてはなりません。
事例:会社Aは「ZACOPE」商標を所有しており、その登録は「未加工及び加工食品、アルコール飲料及びノンアルコール飲料、レストランサービス、カフェサービス」等を含み、第29類、第30類、第31類、第32類、第33類及び第43類に及びます。会社Bは「ZACOPE」商標を第33類「アルコール飲料」に限って取得しようとしました。これは部分譲渡の申請に該当し、譲渡人と譲受人は商標登録に係る一部の商品・サービスのみを移転する意図を有していました。
しかしながら、IPVN は当該申請を、譲渡対象と留保対象の商品・サービスが密接に関連または重複しているため、商業的出所に関する混同を生じさせるおそれがあるとして拒絶しました。
注記:部分的譲渡は、商標登録に記載された商品・サービスの一部を移転する場合にのみ適用されます。商標の図形要素の一部のみを譲渡することは認められていません。
5. 譲受人が譲渡対象商標の商品・サービスを生産または取引する法的能力を欠く場合
ベトナム知的財産法第139条第5項は「商標権は、当該商標を登録する資格を有する者に限り譲渡することができる」と規定しています。また、同法第87条第1項は「組織及び個人は、自己が生産する商品又は提供するサービスについて商標を登録する権利を有する」と規定しています。
実務上、IPVN は商標譲渡申請の審査において、譲受人が譲渡対象商標に係る商品・サービスを生産または取引する法的能力を有しているかを常時確認するものではありません。しかし、譲受人がその能力を欠くと判断するに足る十分な根拠がある場合、IPVN は譲受人に対し、当該商品・サービスの生産または取引に関する法的能力を証する文書の提出を求める審査結果通知を発出する可能性があります。
6. 商標譲渡契約における譲渡価格
譲渡価格は、ベトナム法において商標譲渡契約に必須とされる4つの要素の一つです。以下の場合、商標譲渡契約は拒絶される可能性があります。
- 譲渡価格が不明確な場合:契約には、譲渡対象の知的財産権に対する明確な価格が定められていなければなりません。価格がドル建てで記載される場合は、通貨単位(例:SGD、USD、NZD等)を明確に特定する必要があります。譲渡人が知的財産権を無償で譲渡する場合には、「無償」または「対価なし」と明記する必要があります。
- 無償譲渡の申告と金銭的義務の記載の不一致:契約において譲渡が無償とされているにもかかわらず、支払義務や財務責任に関する条項が含まれている場合、その矛盾により契約は無効となるか、あるいは拒絶の対象となり得ます。
7. ライセンス契約存続中の商標譲渡
対象商標が、知的財産権のライセンス契約に基づき他の組織または個人に使用許諾されている場合、IPVN は商標譲渡申請を拒絶する可能性があります。
救済措置:この問題に対応するためには、以下の文書を提出する必要があります。
- ライセンシー(現在当該商標の使用を許諾されている者)が、譲渡人から予定される商標譲渡について正式に書面通知を受けたことを証する文書。
- ライセンシーが譲渡に同意または承認を行ったことを示す書面。
これらの文書は、商標譲渡が既存のライセンス契約と抵触しないこと、ならびに関係当事者全員が適切に通知を受け、合意していることを確認するために必要です。
8. 商標譲渡契約に関する形式的要件の不遵守
商標譲渡契約は、関連規定に基づく形式的要件を遵守しなければなりません。具体的には以下のとおりです。
- 契約が複数ページにわたる場合、各ページには譲渡人及び譲受人双方の署名が必要であり、またはページの余白に押印をして契約の連続性及び真正性を担保する必要があります。
- 契約には締結日(年・月・日)が明記され、両当事者の署名(及び該当する場合には押印)が含まれていなければなりません。
- 署名者が各当事者の法定代理人でない場合、法定代理人によって発行された有効な委任状を提出し、署名者に署名権限が付与されていることを証明する必要があります。
さらに、譲渡人が事業所または個人営業体である場合、譲受人は、全構成員が特定の代表者に譲渡契約の締結を承認したことを証する書面を提出しなければなりません。事業体が単独の構成員から成る場合には、その単独事業主であることを示す証拠書類の提出が必要です。
結論
ベトナムにおける商標譲渡は単なる形式的手続ではなく、混同防止および消費者利益の保護を目的とした実体的審査の対象となります。潜在的な抵触関係を早期に特定し、譲渡契約を慎重に構築し、法定要件を厳格に遵守することが、成功の鍵となります。以上の推奨事項を実施することにより、拒絶のリスクを大幅に軽減し、譲受人にとって実効的な権利の確保が可能となります。
QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney
PHAN, Do Thi | Special Counsel
HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney
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