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『類似』製品包装:ベトナムにおける不正競争および著作権法制の下での対処方法

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] ベトナムの消費財市場は急速に拡大しており、その成長は模倣行為を誘発している。ベトナムに投資する多くの中国系ブランドは、製品が店頭に並んで間もなく、競合他社が外観の類似した包装を用いた商品を投入してくることを経験している。かかる模倣は、ブランド価値を希釈するのみならず、消費者を誤認させ、販売を侵食するおそれがある。 KENFOX IP & Law Office は、ベトナムの不正競争規制および著作権法制を活用して「類似」包装に対抗する法的手段を分析し、実務上の事例を提示するとともに、ベトナムでの販売を計画する中国系多国籍企業に対し、実務的な指針を提供する。 「包装が重要である理由 - そして模倣される理由」 製品包装は単なる装飾ではなく、商品の出所を表示する役割を有する。著名な事業者が新たな包装を導入すると、模倣品がほぼ即時に出現することが少なくない。競合は不当利得の動機づけを受けやすく、商標または意匠の権利化が係属中である場合、ベトナムの執行当局は対応に慎重な姿勢を示しがちである。複製の容易性と登録手続の緩慢さが相まって、正式な権利保護が確立される前に、類似品が市場に氾濫しうる。 したがって、ベトナム市場に参入する中国企業、特に日用消費財、化粧品、健康補助食品分野の事業者は、当初段階から自社の「トレードドレス」(包装の全体的外観・印象)の保護を計画すべきである。何ら措置を講じないことは不正競争を招き、投資価値を損ない、その後の権利行使を一層困難にする。 「包装を保護するための法的枠組み」 包装は、ベトナム法の下で複数の法領域により保護され得る。すなわち、著作権法(応用美術の著作物として)、商標法および意匠法(総称して「産業財産」)、並びに不正競争法である。これらの相互関係を理解することは、実効的なエンフォースメント戦略の構築に不可欠である。 「不正競争法(知的財産法第130条)」 ベトナムの知的財産法は、知的財産の文脈における「不正競争」を限定的に定義している。2005年知的財産法(改正を含む)第130条は、不正競争行為として評価される行為類型を列挙し、事業主体又は商品の商業的出所、または商品の原産地・特性について混同を生じさせる商業表示の使用を禁止する。「商業表示」には、商標、商号、ビジネスシンボル、ビジネススローガン、地理的表示、並びに包装デザイン及びラベルデザインが含まれる。同条はまた、禁止される使用態様として、当該表示を商品又はその包装に付する行為、広告、販売、当該表示を付した商品の輸入等を明示している。 不正競争に基づく主張を認容させるためには、権利者は、(a) 当該包装の先使用、(b) 当該包装が広範かつ継続的に使用され、需要者に知られていること、及び (c) 競合他社による模倣が商品の出所について需要者に混同を生じさせるおそれがあること、を立証する必要がある。特に、科学技術省通達第11/2015/TT-BKHCN号19.1(d)項は「周知性・広範な使用」の立証として、広告実績、売上高、流通網、メディア掲載、消費者調査等、ベトナム国内における包装デザインの信用の蓄積を示す相当量の証拠を要求している。もっとも、どの程度の販売量や露出が十分と評価されるかについて法の指針は乏しく、新規参入者にとっては立証負担が重いのが実務である。一方で、市場での存在感を確立した後は、不正競争に基づく差止・制裁は強力な手段となり得る。 「実例—欧州系鎮痛薬の事案」 欧州の製薬企業は、名称及び包装配色が類似するベトナム製医薬品の存在を把握した。商標侵害の主張は、ベトナム側企業が類似名称を登録済みであったため奏功しなかった。トレードドレスの登録権利を欠く中、欧州企業は不正競争法に基づく救済を選択し、包装が広く使用され周知であることを立証するとともに、執行機関として科学技術省(MOST)検査機関を選定した結果、申立てから3か月以内に10万点超の侵害商品及び約400kgの包装用アルミ箔の廃棄命令が発出された。本件は、包装が信用を獲得している場合、行政手続による迅速かつ実効的な救済が可能であることを示している。 「著作権法 ― 迅速だが限定的な手段」 不正競争行為の救済とは別に、ベトナムの著作権法は「応用美術の著作物」として認められる包装デザインを保護し得る。ベトナム法は「応用美術の著作物」を著作物の一種として認めており、色彩、模様、グラフィック等に独創性を有する包装デザインは、応用美術として登録することができる。要求される創作性の水準は比較的低く、「当該分野の通常の知識を有する者が容易に創作できない程度」であれば保護対象となり、単なる機能的・凡庸な表現でない限り保護が及ぶ。 著作権登録は手数料が低廉で、登録証明書はおおむね2~2.5か月で発行される。登録証明書を取得することには、次のような実務上の利点がある。 立証責任の軽減:登録証明書は権利帰属の一応の証拠として機能し、権利者は創作の事実を改めて立証する必要がない。 専門機関による鑑定:登録証明書は、ベトナム著作権及び著作隣接権鑑定センター(ECCR)に侵害鑑定を申請するための前提要件であり、その専門意見は行政又は民事の手続における有力な証拠となる。ベルヌ条約加盟国の発行した登録証も、鑑定目的で認められる。 執行の法的根拠:ベトナムの当局は、登録証明書が提示されない限り、著作権侵害を理由とする措置に消極的である。そのため、登録は義務ではないものの、強く推奨される。登録された包装デザインについては、無断での複製・模倣が知的財産法第28条に基づく侵害となる。例えば、競合が許可なく同一又は実質的に同一のグラフィックや文字を印刷して箱を製造・販売する行為は、複製権および頒布権の侵害に当たる。権利者は民事上の救済(差止、損害賠償、侵害物の廃棄等)や、産業財産侵害と同様の行政制裁を求めることができる。重大な場合には、刑法第225条~第228条に基づく刑事責任を問われることもある。 先取りによる防御:早期の著作権登録は、第三者が同一包装を自己の著作物として登録し、執行を妨げる行為を防止する効果がある。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] もっとも、著作権の保護はデザインの具体的表現――形状、色彩、配置等――に限られる。包装の出所表示機能までは及ばないため、競合がわずかな変更を加えて市場で混同を引き起こしたとしても、著作権侵害に当たらない場合がある。その場合、不正競争行為の構成が問題となる。したがって、著作権登録は商標または意匠登録を補完するものであり、これらの代替手段ではない。 「商標及び意匠の登録」 包装(又はその主要要素)を商標として登録すれば、同一又は類似の商品における類似標章の使用を排除する排他的権利が与えられる。包装が出所識別機能を果たす場合、商標登録が不可欠であり、著作権のみではその機能を保護できない。これに対し、意匠登録は、形状、線、色彩等からなる製品の外観が新規性を有し、工業上利用可能である場合に、その外観を保護するものである。 これらの登録は強力な保護手段を提供するが、ベトナムでは審査期間が長い。商標出願の審査は通常16~18か月以上を要し、その間に競合が類似包装を市場に投入する可能性がある。意匠登録も8~10か月を要する。しかしながら、登録が完了すれば最も強固な法的根拠となるため、時間を要しても取得する意義は極めて大きい。 「類似包装に対するエンフォースメント戦略」 【1】市場参入前に強固な権利ポートフォリオを構築する 早期かつ広範に出願すること。中国企業は商標のみに依拠すべきではない。ベトナムでの製品発売前に、次の措置を講じる。 製品名および特徴的な包装要素を商標として、必要に応じて意匠としても登録する。登録成立後は、トレードドレスに対する排他的権利の基盤となる。 包装のアートワークを「応用美術の著作物」として著作権登録する。低コストかつ短期間で所有権の即時的な立証手段を得られ、執行が容易になる。 模倣者による漸次的変更に備え、配色差し替え等、デザインのバリエーションも登録対象として検討する。 複数の権利を併用することで重層的防御が形成される。すなわち、迅速な対応には著作権、広範なデザイン保護には意匠、出所表示機能の保護には商標である。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 【2】独創性および使用実績の証拠を保全する 不正競争に基づく主張の成功には、包装が商業表示として機能し、広範かつ安定的に使用されてきた事実の立証が不可欠である。したがって、事業者は次の対応を行う。 創作過程の記録:スケッチ、ドラフト、デザイナーとの往復書簡、日付入りファイル等を保存する。 使用実績の記録:マーケティング資料、請求書、流通契約、メディア掲載等を保管する。模倣出現前に当該包装がベトナム市場に存在したことの証拠が決定的となる。 市場監視:現地の販売代理店や消費者から類似品情報を収集する体制を整える。早期探知が迅速な執行につながる。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 【3】競合が全面的にコピーした場合は著作権で速攻する 包装デザインが実質的にコピーされた場合、著作権は強力な武器となる。著作権登録証を提出のうえ、著作権・著作隣接権鑑定センター(ECCR)に侵害鑑定を申請する。鑑定が複製を確認すれば、ベトナムの執行当局は侵害品の押収や行政罰の賦課を行い得る。ECCR 鑑定を伴う著作権侵害案件は、地方の市場管理当局でも機動的に取り扱われ、実務上、迅速・効率的であることが多い。さらに、競合他社が貴社包装を先に著作権登録した場合でも、先創作に基づきその有効性を争うことが可能である。ただし、著作権登録は申請人の申告に依拠する側面が大きいため、悪用防止の観点からも早期出願が望ましい。 【4】全面コピーではなく「混同」を生じさせる改変には不正競争で対応する 模倣者は著作権責任を回避するために細部を改変しつつ、全体的外観を維持することがある。この場合に活用すべきは不正競争法である。権利者は科学技術省検査機関(MOST Inspectorate)その他の権限当局に対処を申立てることができる。成功可能性を高めるため、以下を実施する。 不正競争事案の取り扱い経験が豊富な執行機関(例:科学技術省検査機関)を選定する。欧州系医薬品の事例では、同機関の選択が迅速解決に資した。 包装が信用(グッドウィル)を獲得していること、並びに相手方デザインが需要者の混同を惹起することを、客観的資料で提示する。 国家知的財産庁(NOIP)に混同可能性に関する専門意見を依頼する。法的拘束力はないが、執行判断を左右することが少なくない。 手続は比較的長期化し得ることを織り込み、消費者認識の立証に時間を要する点を想定して準備する。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 【5】重大事案では民事訴訟や刑事罰も選択肢とする 侵害行為が重大な損害をもたらす場合、または故意の偽造が関与する場合には、損害賠償等の民事訴訟や、政令第99/2013/ND-CP(およびその改正)に基づく刑事手続の活用が相当である。登録商標(包装を含む)の偽造は、最大5億VND(約2万米ドル)の罰金や最長3か月の生産停止の対象となり得る。サイゴンビール事件では、元従業員が「Bia Saigon Vietnam」の包装を作成し、商標登録前に製造発注を行った。調査の結果、当局はその商標出願を拒絶し、会社を起訴、裁判所は3.7億VNDの罰金を科した。当該事例は、刑事罰の抑止効果と、内部統制を整備して内部者によるブランド資産の不正流用を防止する必要性を強調するものである。 実例と示唆 事件 主要事実 教訓 欧州系鎮痛薬事件(2015年) ベトナム製医薬品が、著名な欧州系鎮痛薬と類似する配色・デザインの包装を使用。商標侵害の主張は、現地競合が自社商標を登録済みであったため認められず。権利者は不正競争法を主張し、科学技術省(MOST)検査機関が権利者側の主張を認容、侵害商品の廃棄を命じた。 登録権利がなくとも、包装が広く知られていることを立証できれば、不正競争法により「類似」包装の排除が可能。適切な執行機関の選定と、十分な立証資料の準備が成功の鍵。 深圳のオーラルケア企業 対 広州の競合(中国事例) 深圳の企業が歯みがき粉の包装デザインを著作権(応用美術)として登録。類似包装を用いた広州の製造・販売業者を提訴。東莞の裁判所は著作権侵害を認定し、販売差止、RMB 6 millionの損害賠償、さらに証拠妨害に対する被告への罰金を命じた。 中国の事例ながら、包装保護における著作権の有効性と高額賠償の可能性を示す先例。ベトナムにおける中越間の紛争でも、当該趣旨の先例が当局・裁判所の判断に影響し得る。 「Bia Saigon(サイゴンビール)」偽造事件 SABECO社の元従業員が「Saigon Vietnam Beer」を出願し、名称・包装が類似するビールを製造。当局は出願を拒絶し、当該者を起訴。裁判所は当該会社にVND 3.7 billion(3,700,000,000 VND)の罰金を科した。 商標を早期に出願し、従業員管理を徹底すべき。商標・包装の偽造や不正流用が関与する場合、当局は厳格な罰則を科し得る。早期の権利化と内部統制が抑止力となる。 QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney [/vc_column_text][vc_column_text] PHAN, Do Thi | Special Counsel [/vc_column_text][vc_column_text] HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney Related Articles: How to effectively handle conflicts between trademarks and copyrights in Vietnam as per Article 73.7 of Vietnam IP Law? 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知的財産専門裁判所:ベトナムにおけるIP紛争解決の「革命」

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] ベトナムにおける知的財産(IP)紛争の件数および複雑性の顕著な増大に加え、現行の行政的・刑事的手段の限界を踏まえ、専門司法の設置が不可欠となっている。2025年1月1日以降、ベトナム法は第一審段階において知的財産専門裁判所の設置を認めている。同裁判所は民事・行政・商事の各種IP紛争を取り扱い、執行の重心を主として行政に依拠する体制から司法に重きを置く体制へと本質的に転換させるものである。 知的財産専門裁判所の創設は、国内外の権利者の双方に対し、より効率的で専門性が高く、予見可能性のある法的手続を提供することにより、IP紛争の解決手法に革命的変化をもたらすことが期待される。 ベトナムの現行IP環境:課題と国際的コミットメント ベトナムは、知的財産法、民法、ならびに知的財産法の実施を指導する政令・通達を含む各種法令を通じて、IP権保護のための法的枠組みを整備し、包括的かつ詳細な法制度を構築してきた。加えて、ベトナムはベルヌ条約、パリ条約、TRIPS協定等の国際条約に加盟し、国際的なIPR基準へのコミットメントを示している。 もっとも、比較的包括的なIPR法制が整備されているにもかかわらず、権利者はなお憂慮すべき現実に直面している。すなわち、訴訟手続の長期化(参照記事:「ノバルティス社、ベトナムにおけるビルダグリプチン特許保護の戦いに勝利」)、裁判所判断の不整合(参照記事:「法と現実:ベトナムにおける著作権侵害損害賠償追及の障壁」)、および執行機関の専門性不足に起因する権利侵害案件の非効果的な処理である。IPR紛争・侵害事案の運用実態は以下のとおりである。 行政的手段は一般的ではあるが、抑止効果の低さ、所管の重複、執行能力の限界により、IPR侵害に十分に対処し得ていない。 刑事的手段は、多くの侵害行為が犯罪の構成要件を充足しないため、適用が困難である。 民事的手段はIPR保護に最も適した手段であるものの、手続の複雑性、損害算定の困難、ならびに権利者の訴訟回避傾向により実効性が乏しく、結果として行政救済が選好されがちである。 裁判所の役割は依然として限定的である。行政執行機関が処理する件数に比し、裁判所で解決されるIPR事件数は極めて少ない。 多重審理・多層審の傾向:IPR関連事件の約8割が、裁判所職員のIPR分野における専門性の限界により控訴審、さらには破棄審(再審)を要している。裁判所は専門機関への諮問を要する場合が多く、当事者に困難と追加費用を生じさせている。 仮処分(緊急措置)の運用は依然として非効率である。法令の規定が限定的かつ具体性に欠けるため、権利者が権利保護を求める際に支障となっている。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] これらの限界に対処するため、ベトナムはCPTPPおよびEVFTAといった重要な通商協定への参加を通じて、より深い国際的統合を積極的に進めてきた。これらの協定は、ベトナムに対し、厳格なIPR執行措置の実施、透明性の向上、ならびに権利者に対するより効果的な救済の提供を求めるものである。これらのコミットメントは前向きな一歩であるが、その完全な履行と実際の影響はなお不確実性を残しており、継続的なモニタリングが必要である。 ベトナムにおけるIPR 執行の新時代:知的財産専門裁判所 ベトナムには現在、第一審の知的財産専門裁判所が2庁設置され、全国を地域管轄で分担している。すなわち、ハノイ(Hà Nội)所在の裁判所は北部・中部の約20省を、ホーチミン市(Thành phố Hồ Chí Minh)所在の裁判所は残余の約14省・直轄市を各々管轄する。本制度の導入に際しては、事件移送および係属中事件の取扱いに関する指針(例:最高人民裁判所司法評議会決議第01/2025/NQ-HĐTP)が併せて示されている。経過措置として、2025年7月1日以前に提起された一部の事件は、従前の管轄裁判所で引き続き審理される。 これら専門裁判所は、従来、一般裁判所および行政チャネルに分散していた民事・商事・行政の各種IP紛争(技術移転に隣接する事項を含む)に、専門性・一貫性・迅速性をもたらすべく設計されている。 知的財産専門裁判所は、ベトナムの既存の司法制度からの重要な転換を画するものであり、その主要な特長は、現行のIPR 執行メカニズムの弱点に対処し、知的財産権の保護をより強固にすることを目的としている。 主要な特長 管轄権(Jurisdiction):知的財産専門裁判所は、第一審において専属的管轄を有する。対象は、(i)民事・商事のIP紛争(特許、実用解決、意匠、商標、地理的表示、著作権、植物品種、営業秘密、IP関連の不正競争行為等)、(ii)IP分野における行政訴訟(知的財産当局の行政処分等に対する取消し等の訴え)、および(iii)国会常務委員会の配分に基づく技術移転関連紛争である。 専門裁判官(Specialized judges):当該裁判所には、IP法に関する専門的知識および実務経験を有する裁判官が配置される。かかる専門性は、複雑なIP紛争の微妙な論点を理解し、関連する法理および技術的考慮に基づく適切な判断を下すうえで不可欠であり、事件処理の的確性・実効性を担保する。 手続の精緻化・迅速化(Streamlined procedures):紛争解決の迅速化を目的として、書面提出期限の短縮、期日の機動的指定、事件管理の効率化等の手続的整備が見込まれる。これにより、IP訴訟に伴う時間的・費用的負担が軽減され、権利者に対し、より適時かつ実効的な権利行使の手段が提供される。 不服申立て経路(Appellate path):当該専門裁判所の判決・決定に対する控訴は、改編後の階層に従い省級人民裁判所で審理され、破棄審・再審(cassation/reopening)は上級(高等)人民裁判所の権限に属する。 無効権限に関する留意点(Note on invalidation authority):新体制は、訴訟の文脈における保護証書の無効化ルートを含め、効力(有効性)争点に関する裁判所の役割を強化するとの見解がある。他方で、これは施行上のガイダンスおよび知的財産法(第95条~第96条)との整合的運用に依存するため、今後の動向を注視すべき領域である。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 権利者にとっての利益(Benefits for IPR holders) 知的財産専門裁判所の設置は、国内外の知的財産権者に対し、重大な利益をもたらす。 訴訟地の明確化と専門性の集中(Venue clarity & concentration of expertise):IP に特化した裁判官を擁する明確な審理の場が確立され、セカンダリー・ミーニング(周知性の二次的獲得)、クレーム解釈、混同のおそれ、損害算定手法、オンライン上の使用に関する証拠基準等の複雑論点について、判断の一貫性が向上する。 迅速性と予見可能性(移行期の影響を踏まえつつ)(Speed & predictability – tempered by transition):事件管理が安定すれば、審理期間の予見可能性は高まる。他方、初期の移行段階では、事件移送、新たな内部ワークフロー、各種ガイダンスの展開により、当初は手続が緩慢となる場合がある。 控訴経路の明確化(Appeals map is cleaner):控訴審が省級人民裁判所に集約されることにより、実務家は二層型の訴訟戦略(第一審:IP 専門裁判所/控訴審:省級裁判所)を、記録の取扱いおよび審査基準に関する確度をもって立案できる。 行政的執行と司法的救済の再均衡(Administrative vs. judicial enforcement rebalance):従来、権利者は行政摘発や行政制裁を民事訴訟に優先させる傾向にあったが、専門裁判所は、損害賠償、差止、先例の明確化が必要な事案において、司法的救済への回帰・強化を企図するものである。 損害賠償法理の整備(Damages jurisprudence):実損、不当利得、相当実施料(reasonable royalty)の代替指標を含む枠組みの明確化、証拠上の推定、専門家証言の運用等が発展することが見込まれる。これは、実効的な賠償を求めるブランドオーナーや特許権者にとって決定的に重要である。(最高人民裁判所司法評議会のガイダンスおよび初期の控訴判断の動向を注視されたい。) 有効性・無効化の手続ルート(Validity/invalidation pathways):有効性争点を裁判所でどのような局面・手続で解決するか、またベトナム国家知的財産庁(IPVN)における無効手続との役割分担をいかに整理するかについて、試験的事件やガイダンスの蓄積が見込まれる。2025~2026年の初期控訴先例が重要な指標となる。 越境・オンライン証拠の取扱い(Cross-border and online evidence):専門裁判所の設置により、外国語証拠、オンライン上の販売・使用の立証、デジタル証拠の保全連鎖(chain of custody)、専門家意見等の取扱いが強化され、従来フォーラム間で不均質であった運用の改善が期待される。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 結論(Conclusion) 知的財産専門裁判所は、単なる司法制度改革にとどまらず、ベトナムの将来への戦略的投資である。IP 紛争解決のための公正・迅速・専門的な審理フォーラムを提供することで、革新を促進し、投資を保護し、経済活動を活性化する。その結果として、ベトナムが地域的・世界的な経済大国としてさらに台頭することに資する。IP 紛争の処理を行政中心から司法中心へと移行させることは、知的財産権のより衡平かつ実効的な保護を実現するために不可欠である。 QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney [/vc_column_text][vc_column_text] HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorne [/vc_column_text][vc_column_text] LY, Dinh Trang | Associate Related Articles: Vietnamese People’s Court System and How it Works in Vietnam How to determine the...

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法と現実 – ベトナムの著作権侵害事件における損害賠償追求の障害

知的財産(IP)権の「譲渡価格」は、ベトナム知的財産法第205条第1項(b)に定められた、IP紛争における損害賠償額の算定根拠の一つである。ところが、最近の注目すべきIP侵害事件において、第一審裁判所および控訴審裁判所はいずれも、知的財産権の「譲渡価格」に基づく損害賠償請求を同時に退けた。本件は、法的手続の複雑性に関する尽きない議論を喚起しただけでなく、裁判所がIP紛争において損害額を認定・算定するための基礎および方法をいかに構築すべきかという重大な課題をも浮き彫りにした。 なぜ、知的財産権侵害に基づく損害賠償請求の遂行はこれほど困難なのか。この疑問を明らかにするため、以下では本件紛争のいくつかの特徴を検討し、その上で、実務上有益な示唆を導出して、権利者がベトナムにおける知的財産権侵害事件の損害賠償に関する制度運用および実務をより良く理解できるよう支援する。 【背景】 被侵害者は米国のソフトウェア企業であり、侵害者はホーチミン市所在の教育機器供給業者であった。同業者は、当該米国企業の許諾を得ていない専門用途のコンピュータ・プログラムを使用していた。文化・スポーツ・観光省監察局による検査の結果、当該ベトナム企業には3,000万VND(約1,300米ドル)の行政罰金が科され、制裁に従い問題のプログラムは削除された しかし、事案はそこで終結しなかった。その後、米国のソフトウェア企業はホーチミン市人民裁判所に民事訴訟を提起し、50万米ドル超の損害賠償を請求した。この金額は、違法に複製された完全モジュール版コンピュータ・プログラムの価額に相当し、同プログラムはベトナム国内で正規再販業者により同額で流通していたものである。さらに、原告は金銭賠償にとどまらず、公の謝罪および訴訟費用の補填として3億VND(約1万3,000米ドル)の支払いも求めた。 第一審および控訴審のいずれの裁判所も、原告の知的財産権侵害の事実自体は認定したものの、損害賠償請求については退けた。その理由は、原告が知的財産法第204条第1項(a)が要求する、財産的損失、収入・利益・事業機会の減少等の具体的損害を立証できなかったことである。 【要点】 知的財産権(IPR)の譲渡価格―侵害事件における損害賠償請求の算定基礎 ベトナム知的財産法第205条は、権利者が請求し得る損害として、財産的損害(財産上の損失、侵害者の利益、譲渡価格その他の財産的損失に基づく)、精神的損害、ならびに法的費用を規定している。とりわけ同法第205条第1項(b)は、「知的財産権の譲渡価格(transfer price of IPRs)」を損害算定の法定手段として認めている。 具体的には、原告が、ベトナム国内において当該知的財産の客体の使用権が第三者に譲渡(使用許諾)された事実を立証し得る場合、裁判所に対し、ライセンス契約書、請求書、当該権利の第三者(被許諾者)への譲渡(許諾)を確認する往復書簡等の関連資料を提出することができる。これらの資料は、当該知的財産の客体の使用権がベトナム国内で実際に第三者に移転(許諾)されたことを裏付ける証拠となる。かかる具体的証拠を提示することにより、ベトナムの権利者は「知的財産権の譲渡価格」に基づく損害賠償の請求が可能となり、裁判所は法定の根拠に基づき、確定した当該譲渡価格に相当する金額の支払を被告に命ずることができる。 この法的セーフガードは、権利者に明確な救済手段を付与し、権利保護と相応の補償の追求を可能にするものである。他方で、最近、第一審および控訴審の両裁判所が第205条第1項(b)の明確な規定にもかかわらず賠償請求を退けた事例は、司法実務上の課題を露呈させた。当該事件が最高人民裁判所に付された経緯は、法の解釈・適用における一貫性確保の必要性と、問題の複雑性を強く示している。 この状況は、権利者に対し、証拠書類の整備および訴訟戦略の緻密さを求めるものである。すなわち、明文の法規であっても解釈に幅が生じ得ることから、専門的法的知見の重要性が一層高まっている。また、不当な判断に対しては不服申立てを通じて是正を図る粘り強さが、知的財産権の実効的な保護に不可欠であることを改めて強調する。 裁判所による法令解釈と課題 前述の事案において、裁判所は「知的財産権の譲渡価格(transfer price of IPRs)」に基づく原告の損害賠償請求を退けた。具体的には、同一市場の他の顧客が過去に支払った価格水準を基準として、被告に対する当該コンピュータプログラムの潜在的販売可能性(逸失した事業機会)を考慮して損害額を算定し得るとする原告の主張を、裁判所は採用しなかった。 この判断の背景には、損害賠償請求に関する従来からの原則が維持された可能性が高い。すなわち、ベトナムにおける知的財産権侵害事件では、原告は侵害者の行為によって生じた現実かつ直接の損害を立証しなければならない。これは、財産的損失、収入減少、利益の低下、逸失利益(事業機会の喪失)、または損害の防止・回復のために要した相当因果関係のある費用等の具体的損害を、裁判所に対し、明確かつ適法な証拠によって示し、侵害行為と発生損害との間に明白な因果関係を確立することを意味する。 ベトナム知的財産法第205条第1項(b)に規定される「知的財産権の譲渡価格」は、権利者に明確な損害算定手段を与えるものであるにもかかわらず、本件で裁判所がこれを退けたことは、理解困難であり、侵害事件において損害賠償を追求する権利者に重大な懸念を生じさせる。 この状況は、原告が損害の主張を成功裏に立証するためには、侵害行為と発生損害との間に明確かつ直接の連関を構築する必要があるという課題を浮き彫りにしている。 ベトナムの権利者にとって、本件は重要な示唆を与える。すなわち、単なる理論的可能性、例えば抽象的な将来の取引機会の喪失にのみ依拠することは、具体的証拠を欠く限り、十分とは言い難い。緻密な証拠管理、法的主張の精緻化、専門的助言の活用が不可欠であり、法制度の特性と厳格な立証要件を的確に理解することが、複雑なベトナムの法環境においても、実効的な損害賠償の獲得能力を大きく高め得ることを強調しておきたい。 対照的な裁判判断 別の注目すべき知的財産権(IPR)侵害事件において、米国企業がベトナムで著作権侵害に基づく訴訟を提起した事案では、裁判所は「知的財産権(IPR)の譲渡価格」に関する証拠を有効な根拠として採用し、これを権利者に生じた財産的損害として認定した。その結果、裁判所はベトナム国内で発生した著作権侵害に対し、権利者に対してベトナムドン約5億に上る多額の損害賠償の支払を命じた。 この事案は、ベトナムの法的枠組みにおける裁判判断の顕著な相違を浮き彫りにするものである。すなわち、本件のように「IPRの譲渡価格」を損害算定の適法な基準として肯認し多額の賠償を命じる裁判所がある一方で、前記の事案のように同様の主張を退ける裁判所も存在し、権利者の間に混乱と懸念を生じさせている。かかる判断の不一致は、関係当事者の公正な取扱いを確保するため、知的財産法の解釈・適用における一貫性と明確性を一層高める必要性を示唆する。 詳細については、当事務所記事「ベトナムにおける著作権侵害で約5億VNDの賠償命令―何を学ぶべきか」(“ベトナムにおける著作権侵害に対する約50億ドンの裁定: 教訓は何か?”)を参照されたい。 【結論】 上記の損害賠償訴訟は、単なる金銭の争いにとどまらず、より重要には、法定の損害賠償メカニズムを明確化するための闘いである。とりわけ「知的財産の客体の使用権の譲渡価格」に基づく損害賠償メカニズムの解釈・適用は、ベトナムの各裁判所で異同が見られ、類似事案であっても結論の相違を招き得る。第一審および控訴審の判断は、理論的・潜在的な事業機会ではなく、財産の減少、収入の低下等の特定の損害につき実質的な立証を厳格に要求するという、相当に保守的かつ厳格な審理姿勢を示しており、財産の喪失や収入減少等の明確な財務証拠が欠ける場合には、損害の立証が困難となる。 知的財産法および損害賠償メカニズムに関する理解が不十分であると、不適切な判断に至るおそれがある。とりわけ、近時の知的財産紛争・侵害は複雑性を増しており、知的財産紛争における損害賠償の実現は、法廷に提出される証拠の質・完全性、当事者双方の法的主張の精緻さ、ならびに裁判官の知的財産法に関する理解・専門性といった多様な要素の影響を受ける。これらの要因は裁判官による法解釈の差異を生み、訴訟結果の予見可能性を低下させる一因となっている。 このように、複雑性と変動性が高まる知的財産紛争の局面においては、深い専門性を備えた知的財産弁護士の関与が、企業の権利保護に不可欠である。KENFOXは、14年に及ぶ業務実績の下、国内外の企業がベトナムにおいて直面する多数の複雑な知的財産侵害・紛争の解決を支援してきた。とりわけ2023年には、ベトナムの大手製薬企業を代理した知的財産権訴訟において重要な勝訴を収めている。 さらなる詳細については、当事務所記事「商標と商号―最近の医薬品商標訴訟から学ぶべき教訓(商標および商号: 最近のベトナムでの医薬品商標訴訟からどのような教訓が得られるでしょうか?)」をご参照いただきたい。本件における顕著な成果は、KENFOXチームの高度な専門性と知的財産法に対する深い理解を如実に示すものであり、複雑な法的課題に果敢に取り組む当事務所の実績と能力をさらに確固たるものとしている。 By Nguyen Vu QUAN Partner & IP Attorney Related Articles: Takedown Notices: How Do ISPs Handle Copyright Infringement Claims in Vietnam? How did KENFOX successfully defend a pharmaceutical trademark in a recent lawsuit in Vietnam? Does Trademark Registration In Vietnam Provide Immunity From Copyright Infringement? How to effectively handle conflicts between trademarks and copyrights in Vietnam as per Article 73.7 of Vietnam IP Law? Handling IPR infringement under criminal route in Vietnam: Key takeaways An Award of Nearly VND 5 Billion for Copyright Infringement in Vietnam: What Lessons to Be Learned? Proving Originality Of...

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ベトナムにおけるビルダグリプチン特許の保護に向けたノバルティスAGの勝利

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] ノバルティスAGは、世界的な大手製薬企業であり、2型糖尿病治療において極めて重要な有効成分である「ビルダグリプチン」の特許権者である。ベトナムにおいて、本発明は特許第5529号として保護されている。その後間もなく、市場には真正品より著しく低価格の模倣医薬品が流通し、消費者の混乱を招いた。ノバルティスAGはこれを看過せず、広範な調査を実施した結果、同社の特許製品がベトナムにおいて重大に侵害されている事実が明らかとなった。 KENFOX IP & Law Office(以下「KENFOX」という)は、権利侵害・紛争対応の複雑案件における15年の助言・代理実績に基づき、「ビルダグリプチン」特許侵害事案のうち、行政的手続によるものと民事訴訟手続によるものの二件につき所見を提示する。これにより、特許権者が直面する課題を特定し、ベトナムにおいて特許侵害を有効に執行・処理するために必要な行動及び戦略を理解する一助とすることを目的とする。 侵害者の法的責任追及 初動調査により、Meyer - BPC Joint Venture Company(以下「メイヤーBPC社」という)が、有効成分ビルダグリプチンを含有する「Meyerviliptin」なる医薬品を違法に上市したことが判明した。市場実態調査を重ねて侵害証拠を収集した結果、ノバルティスAGは、特許侵害の責任主体を明確に特定するに至った。 ベトナム当局による介入を求める法的根拠を確立するため、ノバルティスAGは、ベトナム知的財産研究所(Vietnam Intellectual Property Research Institute、以下「VIPRI」という)に対し、特許侵害鑑定の申請を自主的に行った。提出資料の審査に基づき、VIPRIは、特許第5529号に関し知的財産権侵害を認定するに足る根拠が存在する旨の鑑定結論を発出した。 これら収集証拠およびVIPRIの鑑定結論を踏まえ、ノバルティスAGは、ベトナム科学技術省監察局(Inspectorate of the Ministry of Science and Technology、以下「科学技術省監察局」という)に対し、メイヤーBPC社による特許侵害の取扱いを求める申立てを行った。 科学技術省監察局(Inspectorate of MOST)による摘発 知的財産監察部(Inspectorate of Intellectual Property, IIP)は、Meyer - BPC Joint Venture Company(以下「メイヤーBPC社」という)の本社に対し査察を実施した結果、同社がノバルティスAGの特許を公然と侵害している事実を確認した。具体的には、同社は有効成分ビルダグリプチンを含有する「Meyerviliptin」ブランドの医薬品を「製造」し、ノバルティスAGがベトナムにおいて保護を受ける特許第5529号(「窒素位で置換された2-シアノピロリジン誘導体」)に係る権利を侵害したものであり、これは知的財産法第126条に該当する。これに基づき、同社は政令第99/2013/ND-CP号第13条第5項に従い行政制裁の対象となった。 査察において確認された特許権侵害品の数量は、Meyerviliptin医薬品324箱であり、その価額は324箱×120,000 VND/箱=38,880,000 VND(文字表示:三千八百八十八万ドン)である(内訳:2019年10月24日付メイヤーBPC合弁会社の報告書第237/2019/CV-LD号に計上された321箱および査察班が保管する3箱。単価は2019年9月30日作成の査察記録に基づく)。 8年間にわたる正義の追求:ノバルティスAG、特許侵害訴訟で勝訴 別件として、2023年10月、ホーチミン市高等人民法院はノバルティスAGが提起した特許侵害訴訟の控訴審を開廷した。本件は第一審および控訴審の二審を通じて8年に及び、最終的に特許権者の勝訴に帰結した。これに従い、控訴審判決において裁判所は次のとおり命じ、宣言した。 (i) 被告であるダット・ヴィ・フー製薬株式会社(Dat Vi Phu Pharmaceutical Joint Stock Company、以下「ダット・ヴィ・フー社」という)に対し、次の措置を命ずる。 有効成分ビルダグリプチン50mgを含有する「Vigorito錠」の在庫一切、および当該侵害製品の製造・販売に使用された原材料を廃棄すること。 保健省医薬品管理局における「Vigorito錠」の登録番号を取り下げ(抹消)ること。 『Vietnam Journal of Pharmacy and Cosmetics(ベトナム医薬品・化粧品ジャーナル)』において、謝罪および訂正の公告を掲載すること。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] (ii) 被告ダット・ヴィ・フー社が、ノバルティスAGの特許第5529号を侵害した事実を宣言する。 (iii) 被告ダット・ヴィ・フー社に対し、次の措置を命ずる。 『Health and Life Magazine(ヘルス・アンド・ライフ誌)』において、原告に対する公の謝罪および訂正を連続3号にわたり掲載すること。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="15px"][vc_column_text] (iv) 被告ダット・ヴィ・フー社に対し、ノバルティスAGへの以下の金員の支払を命ずる。 特許第5529号の存続期間中に生じた侵害による財産的損害として、500,000,000 VND(五億ベトナムドン)。 訴訟費用(弁護士費用を含む)として、300,000,000 VND(三億ベトナムドン)。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="15px"][vc_column_text] 結論 医療分野におけるブレイクスルー製品の創出のため、研究・試験に多額の資金(数百万米ドル)と長年にわたる不断の創造努力が投下されている。各医療製品は、知性と汗と涙の結晶であり、数百万の患者の生命に対する「希望」を体現するものである。 しかしながら、かかる知的労働の成果は、模倣や特許侵害という行為により公然と「盗用」されている。これは単なる窃取にとどまらず、自己の発明に心血を注いだ科学者・研究者に対する最大級の不正義である。また、これは公衆衛生を「奪う」行為とも評価し得る。偽造品は、品質および治療有効性に重大なリスクを生じさせ、使用者に深刻な健康被害をもたらすおそれがある。さらに、特許侵害は特許権者に対し、金銭的損失、ブランドの信用毀損、並びに消費者の信頼低下という重大な損害を与える。 ゆえに、個人・組織のいかなる規模においても、特許侵害は容認され得ず、厳しく非難されるべきである。 ベトナムの知的財産法は、この種の侵害に対して厳正に臨む。同法の下では、知的財産権の保護に関し、行政的手段と民事的手段を併存させる「二元的」な執行メカニズムが確立されている。したがって、特許権者は、行政執行機関に対して侵害者の取締りと処分を要請できるのみならず、裁判所に対し、自己が被った損害の賠償を求める訴えを提起する権利を有する。換言すれば、ノバルティスAGは、ベトナムの裁判所に対し、侵害者に損害賠償を命ずる判決の言渡しを求めて請求することができる。 他方で、侵害調査、証拠収集、並びに法的手続の遂行には、特許権者にとって時間・費用・人的資源の面で多大な負担が伴う。よって、前記二件の事案における「正義の追求」の歩みは、単なる法廷闘争にとどまらず、特許権者の権利および正当な利益を保護し、また社会(コミュニティ)に対する責務を果たすという、ノバルティスAGの不退転の決意の証左でもある。 QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney [/vc_column_text][vc_column_text] HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney [/vc_column_text][vc_column_text] NGA, Dao Thi Thuy | Senior Patent Attorney Related Articles: 5 questions to assess whether your product infringes patents in Vietnam Patent Divisional Application In Vietnam –...

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ベトナムにおける登録商標の不適切な使用―リスクと解決策

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] 少なくない数の商標権者は、自らの商標について最も重要なのは「登録されている」という事実であると考え、その結果、商標に若干の変更を加えても、他人の商標を侵害したり、当該登録商標の取消しに至るリスクは生じないと誤信しがちである。実際には、事情はこれと異なる。以下の三つの事例は、登録商標と異なる態様の標章を使用した場合に商標権者が直面し得るリスクを具体的に示すものである。 不適切な商標使用に起因する典型的な紛争 (#1) ASANZO 対 ASANO 最近、ホーチミン市人民裁判所は、原告ドンフオン貿易製造有限会社(Dong Phuong Trading and Manufacturing Co., Ltd.)と被告アサンゾ・ベトナム電子株式会社(Asanzo Vietnam Electronics Joint Stock Company)との間の商標紛争を審理した。原告は、被告が使用する標章「ASANZO(図形)」が、原告の登録商標「ASANO(図形)」を侵害するとの理由により、被告を提訴した。これに対し被告は、ベトナム知的財産庁(IPVN)が「ASANZO」商標の登録を付与していることから、被告による「ASANZO(図形)」の使用は適法であり、侵害には当たらないと主張して原告の主張を争った。関連する商標見本は下表のとおりである。 被告の商標「ASANZO」自体は保護の対象であったものの、第一審裁判所は、被告が用いた標章「ASANZO(図形)」が原告の保護された商標権を侵害すると認定し、被告に対し、侵害の差止め、公の場での謝罪・是正、並びに損害賠償金 1億ベトナムドン(VND 100,000,000)の支払を命じた。 (#2) ENAT 400 対 E-NAT Plus 同様の事案として、タイの製薬企業である Mega Lifescience は、Hiep Thuan Thanh Pharmaceutical Co., Ltd. による商標権侵害について、ベトナム科学技術省監察局(Inspectorate of Ministry of Science & Technology of Vietnam/IMOST)に対し、行政手続に基づく取締りを申立てた。関係する商標見本は下記のとおりである。 本件の事情を踏まえ、ベトナム科学技術省監察局(Inspectorate of Ministry of Science & Technology of Vietnam/IMOST)は、Hiep Thuan Thanh Company の商標「E-NATPLUS」自体は保護の対象である一方で、同社が第05類の医薬品について標章「E-NAT Plus」を使用した行為は、Mega Lifescience の商標「ENAT 400」を侵害するものであると認定した。これに基づき、IMOST は、ハノイにおける医薬品流通の中心地とされるハプーリコ(Hapulico)の薬局で実施した立入検査(レイド)において、「E-NAT Plus」製品700箱超を押収した。 (#3)不適切使用を理由とする商標の取消し 第三者は、語句要素と図形要素から成る登録商標(下図参照)について、不使用取消審判を請求した。これに対し、商標権者は不使用取消しを覆すための使用証拠を提出したが、当該標章の事実関係および使用態様に関する証拠を総合考慮した結果、ベトナム知的財産庁(IPVN)は最近、当該商標が「登録された態様どおりに使用された」と認めるに足る合理的立証がなされていないとして、ベトナム商標登録の有効性を取消す決定を発出した。 登録商標の不適切使用により生ずるリスクとは何か 他人の商標権侵害のリスク 商標の「使用」とは、同種の商品・役務について、異なる主体により提供される商品・役務を需要者が識別できるよう、標章を商品又は役務の提供手段に付す行為をいう。したがって、商標の主たる機能は、当該商標が付された商品・役務の商業上の出所を表示・識別する点にある。登録付与後、権利者は、当該商標の下で登録された商品・役務に対し、商標を「付す」ことにより、ベトナムにおいて商取引を行う権利を有する。 前記三事例の被告はいずれも、ベトナムにおいて自らの商標を登録していた。したがって、法的観点からは、これら被告は、当該登録商標を用いてベトナムで自社製品を商業化する権利を有していたことになる。もっとも、商標の使用は、常に当該商標登録の保護範囲の「内部」にとどまる(又はその範囲に該当する)ことが必要である。商標登録の保護範囲は、(i)登録された商標の態様(標章の外観)および(ii)商標登録証に記載された商品・役務の範囲により定まる。すなわち、商標の使用は、法により付与された保護範囲を逸脱してはならず、たとえ商標が登録されていても、使用態様が不適切であれば、当該商標は法的保護の範囲を超える結果となり得る。 「ベトナムで商標が登録されていれば、どのような態様でも自由に使用できる」と考えるのは誤りである。ベトナム法は、権利者に対し「登録されたとおりの態様」での使用を明文で義務づけてはいないものの、登録商標の使用がその保護の程度・範囲を超え、関連需要者に混同のおそれを生じさせる場合、権利者は多様なリスクに曝され得ることに留意すべきである。なお、行政制裁としては、市場管理局、経済警察、科学技術監察局等の執行機関が、侵害品の押収・廃棄を行い、最大5億ベトナムドン(VND 500,000,000)までの罰金を科し得るほか、権利者は民事手続により、財産的・精神的損害の賠償、謝罪、公開訂正を求めることができる。単に不適切な商標使用を理由として、自社の信用を危険にさらしたり、ブランドへの顧客ロイヤルティを失ったりすることは、誰しも望まないはずである。 商標権喪失のリスク 不適切な商標使用は、商標権の喪失リスクをも招来し得る。第三者は、商標権者又はその許諾を受けた者により、登録日から連続する5年間、商標が使用されていない場合、当該登録商標の取消しをベトナム知的財産庁(IPVN)に請求することができる。登録商標と「非類似」の態様で標章を使用することは、登録商標そのものの使用がなされていないと評価され得る。したがって、このような状況では、(登録商標とは異なる)使用証拠は IPVN により不採用とされる可能性があり、当該登録商標は不使用を理由として取消される高度のリスクに直面することになる。 登録商標の「適正使用」とは何か 政令第65/2023/ND-CP(第40条2項)は、登録商標と「識別力を変更しない範囲で軽微に相違する態様」での使用を「使用」とみなす旨を定めており、パリ条約第5条C(2)の趣旨を反映している。パリ条約第5条C(2)は、商標の使用について次のとおり規定する。 「同盟国の一において登録された態様における商標の識別的性格を変更しない要素に相違のある形で商標権者が商標を使用することは、登録の無効事由とならず、また当該商標に与えられた保護を減少させない。」 したがって、原則として、商標権者は、登録態様と「識別的性格を変更しない」限度で態様を異にする標章を使用しても、そのことにより「登録が無効となることはなく、当該商標に付与された保護が減少することもない」。換言すれば、登録態様と異なる方法で商標を用いても、その識別的性格が変更されない限り、登録商標の使用と評価され得る。かかる立法趣旨は、商標の独自性を損なうことなく、関連商品・役務のマーケティングやプロモーションに適合させるため、商標権者による一定の変更を可能にする点にある。ただし、その変更は識別力に影響しない「些末な要素」にとどまるべきであり、実際に使用される標章と登録商標とは本質的に同一でなければならない。 登録どおりの態様での使用は義務か この問いは、ベトナムにおける商取引の場面で、商標権者がしばしば(i)登録商標のデザイン・色彩・書体等を変更し、(ii)登録商標に含まれる要素を削除し、(iii)登録商標に新たな要素を付加するという運用実態に起因する。では、実使用のために商標を修正したり、登録態様と異なる形で標章を用いたりすると、他人の商標権侵害や自己の商標権喪失のリスクが生じるのか。答えは「場合により得るが、常にそうとは限らない」である。 実務上、一般論としては、登録商標の識別的性格を変更しない限度であれば、書体・スタイライズ・デザイン・色彩等に一定の変更を加えても、当該商標の有効性や保護範囲に不利益な影響を及ぼさないと解される。さらに、追加・削除される要素が非識別的、又は識別力が弱い/顕著性が高くない要素である場合には、当該追加・削除が登録商標の識別的性格を変更しないと評価され得る。かかる場合、要素の付加・削除を伴う実使用であっても、登録商標の使用とみなされる、又は登録商標の範囲を充足する使用と評価される可能性がある。 登録商標と異なる標章を使用する場合のリスク低減戦略 ベトナム法は、権利者自身が登録した商標と「同一/類似」する標章の使用であれば他人(組織・個人)の商標権を侵害しない、といった免責を規定していない。したがって、このような使用によって、商標権者が他者からの侵害主張を免れることは保証されない。ASANZO 対 ASANO 事件および ENAT 400 対 E-NAT Plus 事件は、登録商標とは異なる態様で標章を用いた場合に商標権侵害のリスクが生じ得ることを示している。すなわち、登録の有無にかかわらず、異なるバージョンの標章を用いることにより、商標権者は他者による侵害責任追及に直面し得る。登録商標以外の標章は、登録商標とは無関係の独立した標章として扱われる。ベトナムの執行当局は、他人の商標権侵害の成否を判断するにあたり、次の3要件が満たされるか否かを確認すれば足りる。(i)当該標章が保護商標と同一または類似であること、(ii)当該標章が使用される商品・役務が、保護商標の指定商品・役務と同一または類似であること、(iii)商標の無権限使用が存在し、商標付商品・役務の商業上の出所について混同のおそれがあること。 以上の各事例から、一定の条件の下では、商標権者が登録態様と異なる形で標章を使用することも可能であるといえる。他方、登録商標に変更を加える場合のリスクを回避するためには、以下の二段階の評価を行うことが望ましい。 STEP 1:登録商標の評価 識別性を構成する要素のうち、どの要素が識別力を有し、強い/支配的な視覚的印象を与えるかを特定・評価すること。 STEP 2:実務上の差異および変更の影響の評価 登録商標の識別的性格に寄与する要素が、実使用標章において維持されているか、またはどのように修正されているかを、両標章を直接対比して検討し、両者の差異の程度(大きい・顕著/中程度/小さい・軽微)を判定すること。 概して、上記評価により、登録商標に変更を加える場合に侵害リスクが高いか低いかを見極める助けとなる。リスク低減のため、次の対応・戦略を推奨する。 登録されたとおりの標章の使用を原則とすること。 実使用標章が登録態様と異なる場合には、登録商標の識別的性格が変更されないことを必ず確保すること。理想的には、変更は識別性に影響しない些末な要素に限定すること。 実使用標章が登録済みの標章と実質的に異なる場合には、当該実使用標章について新たに商標登録出願を行うこと。 著作権保護の要件を満たす場合には、ベトナム著作権局における著作権登録を検討すること。 登録態様と異なる実使用標章について、同一・類似商標の有無を把握するための先行調査(アベイラビリティ・サーチ)を実施すること。 先行調査で把握した類似商標については、その有効性を争う措置の検討を行うこと。 商標侵害の蓋然性に関する鑑定(評価書)を、ベトナム知的財産研究所(Vietnam Intellectual Property Research Institute)から取得すること。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 結論 ベトナム知的財産庁(IPVN)において商標登録に成功した企業であっても、他の商標権者からの侵害主張に対して免責が与えられるわけではない。登録態様と異なる形で商標を使用することは、他者による侵害申立てのリスク、または登録商標に付与された権利の喪失リスクを生じさせ得る。 上記事例および現行のベトナム知的財産法の規定のみからは、登録商標に対する変更が、いつ、いかなる程度でリスクを招来するかについて、画一的・確定的な結論を導くことはできない。したがって、登録商標の変更を検討する際には、個別具体の事実関係を精査し、危険・リスク評価を慎重に行う必要がある。 最善の方策は、知的財産分野における豊富な実務経験と専門知識を有する弁護士の助言を受け、適切な解決策・戦略を策定することであり、これにより、知的財産を適法かつ費用対効果の高い方法で活用することが可能となる。 Related Articles: Bad faith trademark filing/registration in Vietnam Invalidating a bad-faith trademark registration in Vietnam Opposing an...

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同一出願日・同一商標:ベトナムにおける解決メカニズムと企業の対応指針?

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] 実務上、全く無関係な二者が、同一または類似の標章について同一の商品・役務を指定して出願することは珍しくなく、ときには同一日に出願がなされることもある。一見すると偶然の一致にすぎないように見えるが、ここには興味深い法的問題が潜む。すなわち、両出願が出願日要件を同等に満たす場合、いずれが優先権を有するのか。いずれが商標の適法な権利者となるのか、という点である。 稀な事例として、KENFOX IP & Law Office の依頼者である Eurotek Vietnam Lubricants Co., Ltd.(Công ty TNHH Dầu nhớt Eurotek Việt Nam)は、2020年5月26日、「(SUPERTOP、図形)」商標について第4類「潤滑油・エンジンオイル」を指定して出願した。2023年7月、ベトナム知的財産庁(IPVN)は、同一日である2020年5月26日に、TLT Spare Parts Production and Trading Co., Ltd.(Công ty TNHH Thương mại Sản xuất Phụ tùng TLT)名義で同一商品を対象とする「SUPERTOP」商標の出願が存在する旨を通知した。両出願が実体審査段階に入るに及び、問題は「どちらが先に出願したか」ではなく、「いわゆる『先願者』が存在しない状況を法制度はいかに処理するのか」へと転化した。 核心的法理:先願主義が決定的でない場合 ベトナムの知的財産制度は厳格に「先願主義」に従う。同主義は、同一の商標・同一又は類似の商品・役務について、より早く出願した者に登録の優位を認めることにより、優先関係を画定するものである。しかし、同一商標について同一日に二つの出願がなされた場合、いずれも他方に先行していない以上、先願主義のみでは勝敗を確定し得ない。 このような場合、IPVNは直ちに一方を「相応しい権利者」として裁定する「仲裁者」の役割を当然に引き受けるものではない。むしろ、制度設計は、公平性および透明性を担保するとともに、当事者間の合意(和解)により自発的に紛争を解決することを積極的に促す方向で構築されている。 「相互引用」:法が当事者間の対話を要請する場合 IPVN(ベトナム知的財産庁)の審査官が、同一出願日に、同一又は混同のおそれのある商標について、同一の商品・役務区分で二つの出願が存在することを認定したとき、特別の手続が作動する。具体的には、IPVNは以下のとおり「相互引用(mutual citation/cross-citation)」メカニズムを適用する。 各出願に対する独立の審査通知:各出願は標準の手続に従い個別に実体審査の対象となる。他方、各当事者に発出される「実体審査結果通知」には、相手方の出願が抵触する先願として引用され、これにより保護不適格(拒絶)の判断が示される。 併行的な法的紛争の承認:相互引用により特異な法的行き詰まり(インパス)が生じ、各出願が相互に他方を遮断する状態が成立する。すなわち、いずれの出願も、他方の存在により許容され得ない。 合意による紛争解決の要請:IPVNは一方的な裁定を下すのではなく、当事者が直接交渉し、解決策に到達することを促す。権限当局は中立的なコーディネーターとして機能し、登録可能性に向けた協議の機会を整える。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 法的帰結 - 行政上の膠着:当事者が紛争の解決方法に関する書面合意を提出しない限り、いずれの出願も登録査定に進むことはできない。IPVNは、最終的に一件の出願のみの登録進行を許可する。 このため、商標権者が通常採り得る経路は次の二つである。 (A)単独権者方式:一方当事者が出願を継続し、他方当事者は自己の出願を取下げるか、又は当該出願(若しくは権利)を前者に譲渡する旨の合意を締結する。これは手続が簡明で迅速であり、一方に明確な商業的利益がある場合に好まれやすい。 (B)単一商標の共同所有方式:双方に権利維持の正当な理由がある場合、単一の統合出願を共同所有することで合意し、双方の名義を一件の出願に併記し、他方の出願は取下げる。この方式は商標の共同活用を可能にするが、長期的な協調関係と、権利・義務の明確な配分が不可欠である。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] いずれの方式を選択するにせよ、当事者は速やかに正式な書面合意を作成し、IPVNに届出なければならない。所定期間内に合意が提出されない場合、当該紛争に係るすべての出願は、紛争未解決を理由として拒絶される。 本メカニズムが妥当とされる理由 「相互引用―当事者合意―単一の登録可能出願」というアプローチは、姑息的な技術的対処ではなく、法原則と登録制度の実務運用との精緻な均衡を体現するものである。 先願主義の客観性の厳格維持:明文の優先根拠がない限り、知的財産当局は「使用の実績」や商業的展開の履歴を考慮しない。これにより、手続的公正が絶対的に担保される。 事務運営の実効性と紛争予防:同一の商品・役務について重複的な権利付与を回避することで、登録後の紛争リスクを最小化すると同時に、当事者間の対話と主体的な紛争解決を促すインセンティブを形成する。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 換言すれば、このメカニズムは、法制度の透明性・客観性を確保しつつ、当事者が善意とブランド戦略を示すための必要な「余地」を創出する。「勝者総取り」の結末を導くのではなく、双方の事業利益に整合した、相互に受け入れ可能な解決へ向けた交渉の機会を与えるものである。 商標権者への提言(実務対応) 上記の事態に適切かつ効果的に対処するため、商標権者は、以下の措置を主体的に講ずべきである。 相手方との速やかな協議開始:相手方出願の引用を理由とする審査通知を受領した時点で、直ちに相手方出願人に連絡する。早期の交渉は、取下げ・譲渡・共同所有といった進路に関し合意形成が図られる可能性を高める。遅延は双方の権利喪失につながり得る。 法的書式の標準化・整備:必要書式を予め準備すること(例:単独権者の指定(designation)又は共同所有契約書、取下げ書、譲渡契約書(該当する場合)、当事者間の合意を確認するベトナム知的財産庁(IPVN)宛ての公式通知文) 共同所有を選択する場合の運用条項の明確化:品質管理、使用範囲、意思決定の仕組み、意見不一致時の解決手続を明確に定める。これにより、消費者の混同および内部紛争を未然に防止する。 期限管理の徹底:交渉継続中であっても、両出願に係る審査スケジュール(応答期限、公報掲載日、第三者の異議申立期間等)を厳格に管理する。能動的なモニタリングは重要期限の失念を防ぎ、不利な手続的帰結を回避する。 長期戦略の検討:多くの場合、単独所有は管理・商業化・権利行使(例:ライセンス付与、執行措置、将来の譲渡)の各面で有利に働く。共同所有は柔軟な暫定解となり得る一方、長期的には運用上のリスクを内包する。利害得失を慎重に衡量し、自社の長期的なブランド戦略に最も適合する選択肢を優先すべきである。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 結論 同一出願日・同一商標という例外的状況においては、最も有効な対応は、迅速に行動し、IPVNの通知に対する応答期限の到来前に、戦略的な交渉を通じて紛争を解消することである。 前掲の事案においては、KENFOX IP & Law Office は Eurotek Company を代理し、「SUPERTOP」商標に関し TLT Spare Parts Production and Trading Co., Ltd. と交渉を行った。その結果、TLT は自己の出願を取下げ、これにより依頼者がベトナムにおいて当該商標の登録を確保するための法的経路が開かれた。 QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney PHAN, Do Thi | Special Counsel HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney Related Articles: Registering a Trademark in Bad Faith in Vietnam: How...

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「悪意」「権利の抵触」および「知的財産権の濫用」—ベトナムにおける「Foellie」商標紛争から得られる教訓は何か

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] 2025年9月15日、ベトナム知的財産庁(“VN IPO”)は、Lưu Ngọc Anh 名義の「FOELLIE」について、商標登録証第525787号の効力を無効とする決定(No. 205432/QĐ-SHTT)を発出し、4年に及ぶ紛争に終止符を打つとともに、濫用的な知的財産権の主張の連鎖に終結をもたらした。韓国法人である Laorganic Co., Ltd.(「Foellie」() 標章〔図案化ロゴを含む〕の真正の権利者)にとって、本決定は単なる勝敗にとどまるものではない。真の権利者としての名義回復に加え、正規流通網の解体を狙った不倫理な権利行使によって窒息していた商流全体の復元を意味する。かかる濫用行為は、電子商取引プラットフォーム上の販売者アカウントの大量削除、売上の急減、ならびにベトナム国内の販売代理店に対する執行当局からの度重なる召喚を招来していた。 KENFOX IP & Law Office は、本件の処理全般にわたり Laorganic を伴走してきた。本稿は、ベトナムで事業を行う企業に対し、以下の点につき理解を深めることを目的とする。(i)「先願主義」が商標の不正占有(乗っ取り)を免罪する盾にはなり得ない理由、(ii)商標権と著作権の権利抵触に対しベトナム法がいかに対処するか、ならびに(iii)権利行使と手続濫用との適法な境界、及び保護範囲を逸脱した場合に生ずる法的帰結。 背景 2022年、韓国法人である Laorganic Co., Ltd.(「Foellie」()商標の適法かつ排他的権利者)は、ベトナム国内の電子商取引プラットフォーム上で、「FOELLIE」の標章を付した各種化粧品およびデリケートゾーン用香水(“Inner Perfume”)が、無権限のまま宣伝・流通されている事実を発見した。特筆すべきは、当該製品が Laorganic と正規の流通契約関係を有しない La Pharma Pharmaceutical Co., Ltd.(以下「La Pharma」という)によって市場投入されていた点である。 KENFOX IP & Law Office が実施した法的調査により、重大な知的財産権侵害を示唆する一連の行為が明らかとなった。すなわち、La Pharma の代表者である Lưu Ngọc Anh は、無権限流通行為を直接的に主導していただけでなく、2020年に「FOELLIE」商標のベトナム登録出願人でもあることが確認された。 さらに、Lưu Ngọc Anh の管理下にあるウェブサイト(https://foellie.info)においては、あたかも La Pharma がベトナムにおける「Foellie」正規代理店・正規流通業者であるかのような宣伝が行われていた。同サイトの「Foellie ブランドについて」欄では、「Foellie Inner Perfume は韓国のプレミアム香水ブランドの先導者であり、ベトナムを含む多数の国に輸出されている」との記載までなされ、商品の出所および流通権限に関し、重大な混同を生ぜしめる状況を惹起していた。 Laorganic(韓国)がベトナムで著作権登録を取得している応用美術の著作物である「Foellie」ロゴの無断使用に対し、KENFOX IP & Law Office は著作権・関連権鑑定センター(ECCR)に専門鑑定を申請した。ECCR の鑑定結論は、La Pharma の製品における「Foellie」ロゴの使用が露骨な複製に当たり、ベトナム法上の著作権侵害を構成することを明確に確認した。 2023年9月、KENFOX IP & Law Office はハノイ市市場監視局第1支局に対し、侵害行為の取締り申請を提出した。しかし、La Pharma が主としてオンラインで販売を行い、登記住所に在庫を保管していなかったため、当局は物証の確保に至らなかった。 法的転機は2024年11月に訪れた。ベトナム知的財産庁(VN IPO)商標審査センターが Laorganic の異議申立てを却下する通知を発し、その結果、2025年1月に Lưu Ngọc Anh 名義で商標登録証第525787号が交付される道が開かれた。 報復的措置と知的財産手続の濫用(Lưu Ngọc Anh) 商標登録証の取得直後、Lưu Ngọc Anh は、ベトナムにおける Laorganic(韓国)およびその正規流通網に最大限の圧力を加えることを目的として、知的財産権の執行手続を濫用する報復的な法的キャンペーンを展開した。 差止め警告書の送付(脅迫的警告):Laorganic(韓国)の正規販売業者らは相次いで、今後も「Foellie」製品の取引を継続すれば法的措置を取る旨を警告する Lưu Ngọc Anh 名義の差止め書簡を受領した。 メディア削除—広告コンテンツの撤回要求:YouTube に対し、KOL/クリエイターによる「Foellie」関連コンテンツの削除申立てが行われ、情報の空白を生じさせ、消費者認識を歪め、実質的に Laorganic の発信力(share of voice)を麻痺させた。 流通チャネルの圧迫—TikTok・Shopee・Lazada に対するアカウント停止要求:一方的な申立てにより、ほぼ10年にわたり運用されてきた電子商取引プラットフォーム上のアカウントが次々と削除され、流通網のデジタル・コマース基盤が切断された—これにより、コミュニケーション、受発注処理、カスタマーサービスの各チャネルが失われ、消費者は無権限の販売源へ誘導された。 当局の動員—標的化された行政申立て:ベトナム電子商取引・デジタル経済局に対し申立てを行い、同局はホーチミン市市場監視支局宛に公文書第892/TMĐT-QL号を発出した。これは、国家の執行装置を動員して圧力に正当性を付与し、相手方事業のオペレーションを撹乱することを企図するものであった。 アイデンティティの不正流用—「公式」を称する代行チャネルの開設:商業上の優位を不正に獲得し消費者を誤導する目的で、Lưu Ngọc Anh は自らの名義で TikTok チャンネルや Shopee/Lazada...

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メタバースにおける商標:ベトナムの仮想空間で「物理的」製品の商標をいかに実効的に保護するか?

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] 商標紛争は、ますます多様化・複雑化し、絶え間なく生起している。ベトナム、中国その他の国で保護された「物理的」自動車や時計の商標権者は、同一製品の「仮想」版がオンラインゲーム内にロゴを付したまま登場し、プレイヤーが現実の通貨を支払って取得する行為を差し止める権利を有するのか。より一般化すれば、仮想商品に対する標章の使用は、物理的商品に係る商標権を侵害し得るのか。従来、商標侵害は混同のおそれに基づき判断され、その際には商品・役務の類否が重要な役割を果たしてきた。古典的な判断要素(性質・目的・機能・取引経路)に照らせば、仮想製品は物理的製品とは本質的に異なるものと一見評価され得る。 しかしながら、中国および欧州連合における近時の二つの判決は、この従来アプローチの転換を示唆し、デジタル空間における商標保護の射程を再定義し得ることを示している。KENFOX IP & Law Office は、上記二判決を精査し、そこから導かれる新たな法理を要約するとともに、ベトナムで事業を行い投資する企業が、進化し続けるデジタル環境においてその資産を保護するための包括的な戦略的ロードマップを提示する。 1.法的環境の進化:「物理的商品」対「仮想商品」 中国:ジョージ・パットン事件 本件は著名自動車ブランド「George Patton/G.PATTON」の商標を、あるビデオゲーム開発会社が不正に使用した事案である。同社はゲーム「Game for Peace」内の仮想自動車に当該商標を付し、無断利用を行った。第一審裁判所は、従来の議論――すなわち「仮想の自動車」は機能、流通経路、需要者が実物の自動車と明確に相違するため混同は生じない――に依拠し、商標権侵害を否定した。 しかし、杭州中級人民法院は2025年7月21日、控訴審において第一審判決を覆し、画期的判断を示した。同法院は、一定の条件の下では、商標法上、仮想物品を現実世界の対応物と「類似」と評価し得ることを認め、ゲーム開発会社およびその関連会社に商標権侵害(ならびに不正競争)を認定し、人民元100万元(約35億ベトナムドン)の損害賠償を命じた。 裁判所の理由付け:紙面上は、対象商品がニース国際分類において別クラス(実物自動車は第12類、ゲームソフトは第9類)に属し、形態や需要者層も相違することを裁判所も認めた。他方で、裁判所は仮想版と実物版の間に以下の重要な重なりを見出した。 機能・用途:ゲーム内の仮想車両は、プレイヤーの移動(高速移動やレース)という輸送機能を担い、実物自動車の機能に密接に呼応していた。仮想のG. Pattonは外観・内装・エンジン音に至るまで精緻に再現され、プレイヤーに実車との強い連想を生じさせた。 需要者の重なり:販売経路(実車はディーラー、仮想車はゲーム内ショップ)や主要ユーザーは形式上異なるものの、プレイヤーがゲーム内で「G. Patton」ブランドに接触することで、実車の潜在顧客となり得るという興味関心の収斂を裁判所は指摘した。すなわち、商流を静態的に捉えず、両世界間での需要者移動・相互作用を考慮して市場の重なりを認定した。 公衆の認識とマーケティング:被告らは商標(名称・ロゴ)およびデザインをゲーム内で再現したのみならず、「正式ライセンス」「正確な再現」といった表示で提携を宣伝した。これにより、ゲーム開発会社がジョージ・パットン商標権者から適法な許諾を受けているとの誤信を公衆に与え、商標と真正の出所との結び付きを切断し、混同を惹起したと判断された。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 要するに、デジタル上の車と実物の車との間には明白な差異があるにもかかわらず、その商業的・ブランド的影響は緊密に結び付いていた。したがって、商標法上、仮想車両は実車と「類似」と評価され、仮想領域における無断使用も侵害を構成し得るとされた。本中国判決は、仮想商品を物理的商品と「類似」と明示的に認めた最初の裁判例として、デジタル経済の課題に対処するため、ニース分類の形式に拘泥しない姿勢を示した法的マイルストーンである。すなわち、商標価値は媒体の如何を問わず、出所・後援に関する公衆の認識に存することを改めて確認するものである。 欧州連合:グラスヒュッテ事件 本件は、著名なドイツの時計メーカーである Glashütter Uhrenbetrieb GmbH が、自社ロゴ(語句「Glashütte ORIGINAL」を含む)について、第9類・第35類・第41類の「ダウンロード可能な仮想製品(具体的には時計)」等を指定商品・役務として商標出願したところ、欧州連合知的財産庁(EUIPO)および審判部が、識別力欠如を理由に拒絶した事案である。理由は、「Glashütte」が高級時計で著名なドイツの地名である点にあり、特にドイツにおける需要者は、仮想時計において「Glashütte」の表示を見ても、直ちに高品質時計の産地としての地名を想起し、出所識別標識としては認識しないという懸念であった。 Glashütter Uhrenbetrieb GmbH は、EUIPO 審判部が物理的な時計製造分野における地名の評判を、同評判のない仮想領域へ「移転」した点を誤りとして、欧州連合一般裁判所(General Court)に控訴した。 一般裁判所の判断:2024年12月、一般裁判所(GC)は控訴を棄却し、拒絶を維持した。とりわけ、本件は仮想商品に関する商標の識別力について EU の裁判所が初めて判断を示した事例である。GC の論旨は、平均的需要者の視点からすれば、「仮想」製品は本質的にその「物理的」同等物と同様に知覚される、という点を強調する。判旨の要点は以下のとおりである。 グラスヒュッテの時計製造における強い評判は認められる。ドイツ国内において「Glashütte」は高級時計の生産地を直ちに想起させる地名であることを、裁判所は是認した。 出願人は、グラスヒュッテがデジタル時計や仮想商品に関して評判を有しない以上、仮想の文脈では識別力が認められ得ると主張した。しかし、裁判所はこの人工的な切り離しを退けた。すなわち、仮想商品が(本件の時計・計時器のように)物理的商品類型を「明示的に指し示す」場合、関連需要者は物理領域における認識を仮想領域へと転移させる。裁判所の言葉を借りれば、需要者は「仮想の時計を物理的な時計と同様に見る」のであり、かかる仮想時計上の「Glashütte」の表示は、出所識別標識としてではなく、品質やスタイルの指標として直ちに機能してしまう。よって、当該商品について標章は識別力を欠くと判断された。 「物理的」時計と「仮想」時計の需要者層が重ならないとの主張も排斥された。決定的なのは商品の本質――すなわち物理的時計の直接的模倣であることであり、この性質が公衆の認識を物理・仮想両環境で一体的にさせるという点が重視された。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 本件 EU 判決は、侵害や混同のおそれの有無自体を直接判断したものではなく、登録適格性(識別力)に焦点を当てる。しかし、その含意は明確である。すなわち、物理世界における商標の意味・評判は、仮想環境にも完全に転移し得る。一般裁判所はさらに、標章に対する公衆の認識は「仮想商品へ移行しても変わらない」と確認した。要するに、対応する仮想商品は、少なくとも標章の識別力の観点、ひいては混同可能性の分析において、物理商品と同等に知覚されるというアプローチが示された。 留意すべきは、この立場が EUIPO 自身の2024年審査ガイドラインの示唆――デジタル商品と物理商品は商標上当然に類似とみなすべきではない――と一線を画している点である。もっとも、グラスヒュッテ事件は、仮想商品が物理商品を直接的に模擬する場合には、商標法上、両者が同等に評価され得ることを示した。行政上の指針と裁判所の司法的論理との間の乖離は、メタバース現象の急速な進展に法が迅速に対応しつつあることを反映している。 2.商標法上,「仮想商品」と「物理的商品」は「類似」たり得るか 中国(侵害)とEU(登録)の二件は,共通の潮流を示している。すなわち,物理世界の製品と仮想製品との間にかつて明確であった境界線が,法の眼から見て曖昧になりつつあるという点である。 ベトナムを含む古典的な商標法理の下では,混同のおそれの判断は,標章の類否と商品・役務の類否の比較に基づく。商品類否を測るに当たり,性質・構成,用途・使用目的,機能的特性,需要者,流通・取引経路等の要素が検討される。これらの基準を硬直的に適用すれば,有体物(例:自動車・時計)はデジタル資産(ゲーム内3Dモデルやソフトウェア)と本質的に異なる――現実世界の輸送 vs. ゲーム内の娯楽,自動車販売店 vs. アプリストアやゲームプラットフォーム,自動車購入者 vs. ゲーマー――よって,混同は生じにくく,ゲーム内アイテムの出所が実物製品と同一であると需要者が誤信することはない,という結論に至る。実際,これは中国の第一審裁判所の論理であり,多くの商標庁(EUIPOのガイドラインを含む)で支配的であった見解である。 しかし,メタバースの拡大に促される現代的潮流は,とりわけ仮想商品が現実の製品を意図的に模倣する場合に,従来要素の外側をも見据える。中国のG. Patton事件では,控訴審が,差異があるにもかかわらず,仮想自動車と実物自動車が形成する商業的印象は密接に関連すると事実上認定した。同様に,EU一般裁判所は,仮想の時計は媒体を異にして提示された「時計」にほかならないと判示した。著名な標章や名称が仮想の時計上に表示されれば,需要者は直ちに現実の時計分野における出所・品質観念を結び付ける――したがって,記述的・一般的な含意もそのまま転移する。ここから演繹すれば,侵害事案であれば,同様の理由により,ライセンスされたブランド拡張と誤信させる混同を惹起し得る。 両事件に通底する決定的考慮は,需要者・公衆の認識である。ゲーム内で自動車ブランドを用いることにより,相当数の需要者が関係・許諾の存在を推認する(中国裁判所が認定)のであれば,当該使用は商標の機能を損ない,侵害と評価されるべきである。同様に,「Glashütte」が仮想の時計上に表示されたときに,一般需要者が直ちに同地の高級実物時計を想起するのであれば,当該標章は出所識別標識として機能しておらず(ゆえに登録不適格)である。いずれも,現実から仮想へと意味連関が「転移」することを示す。 したがって,「性質・目的・機能・商流」のみを専ら視野に収める従来アプローチは,フィジタル(physical × digital)時代には陳腐化した。仮想の自動車は単なる画像ではない。新世代の需要者を惹きつけ,ゲーム体験を現実世界のブランド認知へと転化し得る強力なマーケティング装置である。ゆえに,全体的な需要者認識に焦点を当てる新たな基準が必要となる。 この新基準は,概ね次の要素を含む。 (i) ブランド認知:商標の周知・著名性および市場での認知度。ブランドが著名であるほど,仮想世界でも当該ブランドとの結び付きが公衆に想起されやすい。 (ii) 製品の模倣性:仮想商品が対応する物理的商品の機能・外観・アイデンティティをどの程度再現・擬態しているか。 (iii) 市場の重なり:物理世界と仮想世界の間で,需要者の関心・選好が移行・収斂する蓋然性。 (iv) 出所混同:仮想商品が原商標権者により製作・後援・許諾されているとの誤信を公衆に生じさせる程度。 さらに,米国の判断もこの基準を補強する。米国特許商標庁(USPTO)において,審査官は第三者の「仮想Gucci商品」に関する出願を拒絶し,その理由として,仮想商品とGucciの物理的対応商品は「単一の標章の下,同一の出所から提供され得る種類のもの」であると述べた。中国・EU・米国という三法域におけるアプローチの収斂は,これは偶発的変化ではなく,技術進歩に適応するための世界的な法的潮流であることを示す。裁判所が発するメッセージは明確である。すなわち,ブランドの評判とグッドウィルは物理世界に限られず,新たなデジタル空間へも追随する。 3.メタバース時代におけるベトナムの実効的な商標保護:いかなる戦略か ベトナムでは,「仮想」商品と「物理的」商品を商標目的で区別する明確な法令は未だ整備されていない。以上の紛争事例を踏まえると,核心的な問いは次のとおりである。すなわち,混同のおそれを評価するに当たり,ベトナムの知的財産当局は「仮想」商品と「物理的」商品を「類似」とみなすのか,という点である。 白黒の結論が確立するまでの間に,第三者による「仮想」商品に対する商標の無断使用を予防し,将来の法的紛争に備えるためには,出願範囲を拡張する戦略が不可欠である。KENFOX IP & Law Office は,ニース分類に基づく「物理的」商品の指定登録に加え,以下の商品・役務区分での出願を検討することを推奨する。 第9類:いわゆる「ダウンロード可能な仮想商品」の中心区分。物理ブランドは,次のような明確な記載で保護の射程を同区分へ拡張すべきである――「NFT により認証されたダウンロード可能なデジタルファイル([物理的製品の記載例:自動車,時計,衣料]に関するもの)」,「オンラインおよび仮想世界で使用される,[製品例:車両,履物,宝飾品]等の仮想製品を特徴とするコンピュータソフトウェア」。 第35類:「仮想小売サービス」および「オンライン販売サービス」を含む。メタバース内での仮想商品販売や仮想店舗運営を取引地点で保護する観点から,この区分での登録は有用である。 第41類:「仮想エンターテインメントサービス」を含む。オンラインゲーム,バーチャルコンサートその他の娯楽イベント等,仮想製品が使用される文脈を保護するうえで重要な区分である。 第42類:インタラクティブメディア,画像,デジタルキャラクター等の作成・生成・改変のための「ダウンロード不可のソフトウェア提供」等,技術関連サービスを含む。仮想製品を創出する基盤技術に対する保護層を付与する。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 結論 中国およびEUの画期的判決は、世界の商標権者に明確なメッセージを発している。すなわち、硬直的な分類に依拠する従来手法はもはや十分ではないということである。裁判所は、デジタル経済における紛争解決にあたり、柔軟性と公衆の認識を基礎とする新たな法基準へと軸足を移しつつある。商標の価値および営業上の信用(グッドウィル)は、もはや「物理的」製品にのみ結び付けられるものではなく、「デジタル」上の複製物およびそれに対応する仮想サービスへと拡張している。 ベトナムの商標権者にとって、今は迅速な行動が求められる時期である。国内の法制度は「仮想」商品に関する明確な規定をなお欠くものの、紛争は一層複雑化する傾向にある。したがって、最も有効な保護戦略は訴訟の発生を待つことではなく、「物理」と「仮想」の双方を包含する強固な商標ポートフォリオを先行的に構築することである。具体的には、第9類・第35類・第41類・第42類への出願拡張は、もはや贅沢ではなく、メタバース時代においてブランドという無形資産を保全するための本質的要件である。 QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney PHAN, Do Thi | Special Counsel HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney Related Articles: Handling Trademark Infringement in Vietnam: 8 Key Considerations Genuine Goods, Trademark Infringement: The Rule One Proteins Victory in Vietnam Handling...

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ベトナムにおける自由実施調査(FTO):製品上市前にFTOを行うべき理由と方法

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] FTO 調査を行わずにベトナムで製品を上市することは、まるでヘッドライトを消したまま夜道を走るようなものです。可能ではあるものの、極めて危険かつ高コストになり得ます。ベトナムは実用新案制度(Utility Solutions)を採用しており、侵害判断において強力な均等論(Doctrine of Equivalents)が適用されるほか、広範な「ボーラー型」(Bolar-type)承認例外も存在します。これらの制度が企業に有利に働くのか、それとも不利に働くのかを把握することが、製品の上市成功の可否を左右します。 ベトナム市場への参入を検討する外国企業にとって、自由実施調査(FTO)の実施は単なる形式的な手続きではなく、リスク軽減および戦略的事業計画のために不可欠な積極的ツールです。グローバル・サプライチェーンへの統合が進み、外国直接投資(FDI)を積極的に誘致するベトナムにおいて、FTO 調査は不可欠です。このデューデリジェンスを怠ることは、特許侵害訴訟や企業イメージの毀損といった重大な法的・財務的リスクに企業を晒すことになります。なぜなら、FTO は本質的に「防御的戦略」であり、他者の特許権を侵害しないことを目的とするもので、自ら特許を取得することとは根本的に異なるからです。 1. 自由実施調査(FTO)とは何か 自由実施調査(Freedom-to-Operate, FTO)、別名クリアランス調査または侵害調査とは、ある製品・プロセス・技術が、特定の国において他者の有効かつ強制力を持つ特許権を侵害することなく製造・使用・販売できるか否かを判断するための徹底的な調査を指します。通常の特許調査とは異なり、FTO 分析は「存続中の権利」に焦点を当て、現在有効な特許権および将来有効となり得る出願中の特許を対象とします。主たる目的は、市場参入や製品上市前に侵害リスクを評価・軽減することにあります。 FTO プロセスは単なる法律上の形式ではなく、基本的な経営戦略の一環です。製品が完成してから調査を行う姿勢は、既存特許により市場参入が阻止される可能性を見過ごし、多額の投資を危険に晒すリスクを伴います。研究開発の初期段階で FTO 分析を導入する企業は、その結果を基に設計を調整したり、製品計画を修正したり、潜在的な紛争を回避するための代替的なイノベーションを実行することが可能となります。さらに、精緻に実施された FTO 調査は、投資家にとって重要な評価要素であり、デューデリジェンスの過程でリスクを低減させ、投資判断に安心感を与えることで資金調達の円滑化にも寄与します。 2. ベトナムにおいて独自のFTOアプローチが求められる理由 ベトナムの知的財産権制度は、他国とは異なる固有の複雑性を有しており、個別に調整された自由実施調査(FTO)アプローチが不可欠です。 二重の権利による阻害要因 ベトナムでは、発明特許(存続期間20年)と実用新案(存続期間10年)の双方が保護対象とされています。実用新案は進歩性要件が緩やかであるため取得が容易であり、単に「特許」のみを調査対象とした場合には見落とされるリスクが高いのが実情です。ベトナム市場に対応したFTOでは、両方の権利形態を調査・分析する必要があり、これを怠ると誤った安心感を持ち、重大かつ潜在的な侵害リスクに直面する可能性があります。外国企業にとって、この二重構造は包括的な調査を必須とする要因となっています。 均等論の適用 ベトナムにおける侵害判断では、国家知的財産研究所(NIIP、旧VIPRI)が提供する専門家意見が重視され、そこでは「機能―方法―結果(F-W-R)」による分析が用いられています。この均等論の適用により、特許請求項の文言に文字通り該当しない場合であっても、「実質的に同一の機能を、実質的に同一の方法で実行し、実質的に同一の結果を生じさせる」場合には侵害と認定され得ます。したがって、設計をわずかに変更するいわゆる「回避設計」も依然として侵害と評価される可能性があり、FTO分析においては極めて重要な考慮要素となります。特にNIIPが示す専門家意見は、法的手続において強い説得力を持ちます。 特許期間延長制度(PTE)の不存在 ベトナムには、他国に見られる一般的な特許期間延長制度(Patent Term Extension, PTE)は存在しません。発明特許は出願日から20年間存続しますが、審査に要する期間により実効的な商業利用期間が短縮される場合があります。ただし、注目すべき点として、政令第65号(Decree No. 65/2023/ND-CP)は、医薬品分野において販売承認取得が遅延した場合に限り、特許権者に補償を認める仕組みを導入しています。これは、医薬品企業が製品上市のタイミングや市場参入リスクを検討する際に重要な要素となります。 ベトナム特有のFTO要件 したがって、PCT/米国/EUに基づく形式的なFTO調査をそのままベトナムに適用することは不十分です。ベトナムでは、①特許と実用新案の両方を対象とした調査、②NIIP流のF-W-R均等論分析、③PTEの存在しない医薬品分野における上市タイミングの検討、これら三要素を調査フローに組み込む必要があります。これにより、実際の法的リスクを適切に評価・管理した実務的なFTO判断が可能となります。 3. ベトナム特有の7段階FTO手法 ベトナムにおいて包括的かつ正確な自由実施調査(FTO)を行うためには、信頼できる現地の知的財産法律事務所の専門性が不可欠です。これは単なる推奨事項ではなく、戦略上の必須要件です。たとえば KENFOX IP & Law Office のような事務所は、独自の内部データベースを保有し、元ベトナム知的財産庁(VNIPO)審査官を含む経験豊富な専門家を擁しており、一般公開されている検索エンジンでは得られない技術的知見と深いローカル知識を備えています。このようなパートナーシップは、手続上の主要な課題を軽減し、調査が最も完全かつ正確な情報に基づいて実施されることを保証する基盤となります。 ベトナムにおける専門的なFTO調査は、単なるキーワード検索を超えた体系的なプロセスであり、同国特有の法制度や機関環境を十分に考慮した個別対応型のアプローチを必要とします。包括的なFTO調査における典型的なワークフローは、以下の7つの段階で構成されます。 ステップ1:定義: 分析対象となる製品またはプロセスを精緻に定義することから開始します。その特徴を分解し、構成要素や工程を特許請求項に対応付けることで、調査範囲を広くかつ正確に設定することが可能となります。 ステップ2:適切なデータベースの検索: 調査は多角的に行う必要があります。具体的には、ベトナム知的財産庁(IPVN)の公式オンラインポータルである WIPO-Publish を利用することが必須です。さらに、リージョナルな視点や法的ステータス確認には ASEAN IP Register が有用です。加えて、WIPO PATENTSCOPE のような国際データベースを用いて、特にPCTルートを通じてベトナムに進入する特許ファミリーや国内移行案件を特定することが極めて重要です。 ステップ3:広範な検索: ベトナムの知財制度は、発明特許と実用新案という二つの権利形態を有するため、双方を対象とした調査が不可欠です。国際特許分類(IPC)コード、英語およびベトナム語によるキーワード、権利者や特許ファミリー単位など、複数の基準を用いて検索を行う必要があります。 ステップ4:法的ステータスと存続期間の確認: FTO調査の価値は、発見された特許の現行ステータスに依存します。特許が登録済みか出願中か、年金が支払われ存続中かを確認することが不可欠です。発明特許は出願日から20年間有効ですが、ベトナムには一般的な特許期間延長制度(PTE)が存在しません。公的データベースでは情報が不足することが多いため、現地専門家の知見が不可欠となります。 ステップ5:請求項の読解(均等論を含む: これはFTO分析の核心部分です。特許の請求項を精査し、その保護範囲を理解する必要があります。単なる文言解釈にとどまらず、国家知的財産研究所(NIIP、旧VIPRI)が用いる「機能―方法―結果(F-W-R)」アプローチによる均等論の適用を考慮しなければなりません。製品の要素と潜在的に阻害となる特許請求項を対比させたクレームチャートの作成は、標準的かつ有効な実務手法です。 ステップ6:例外および抗弁の考慮: 包括的なFTO報告書には、侵害主張に対する潜在的抗弁を含める必要があります。ベトナムにおける主要な例外は以下のとおりです。 ボーラー例外/規制承認:国際的に広く認められる医薬品分野のボーラー例外に加え、ベトナム法制では規制承認遅延を受けた特許権者に対する限定的な補償制度が導入されており、製薬・医療機器企業にとって重要な考慮要素となります。 出願公開後の暫定的権利:特許出願が公開された場合、後に特許が成立したときには、出願人が通知を行った後にその発明を使用した第三者に対して合理的な補償を請求できる可能性があります。 並行輸入(権利消尽):ベトナムは国際消尽制度を採用しており、特許権者またはその同意を得た者が世界のいずれかの国で適法に販売した製品については、再販売や輸入を特許権者が禁止できません。 先使用権:出願日前に善意で当該発明を使用していた者は、その使用の範囲および規模において引き続き使用を継続する権利を有します。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] ステップ7:リスク評価と軽減策: 最終段階では、全ての調査結果を統合し、明確なリスク評価(高・中・低)を提示した上で戦略的提言を行います。軽減策には、製品設計の変更による「回避設計」、特許権者とのライセンス交渉、あるいは阻害特許の有効性を争うことが含まれます。なお、2022年改正知的財産法により、実施可能要件の欠如や開示範囲を超える請求など、新たな特許無効理由が追加されており、戦略的抗弁の一環として活用可能です。 4. ベトナムにおけるFTO環境への対応:主要な構造的課題 データ透明性の制約: ベトナムの公開特許データベース(例:IPVN)は、基本的な書誌事項や請求項情報を提供しているものの、特許が有効中か、失効済みか、または放棄されたのかといった法的ステータスに関する信頼できるデータを欠いています。この欠陥により、公開情報に基づく検索だけではFTO目的に十分とは言えません。最も正確かつ最新の記録は、通常、認可を受けた代理人または審査官に限定されており、利用に制約があります。その結果、信頼できる現地知財事務所との提携は選択肢ではなく、不可欠な要件です。独自データベースや現地での確認にアクセスしない限り、外国投資家は不完全または時代遅れの情報に基づいてFTO判断を下すリスクを負うことになります。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 言語および翻訳に伴うリスク: ベトナムにおける特許出願はすべてベトナム語で提出しなければならず、権利行使に関する判断もベトナム語版の明細書のみに依拠します。ベトナム知的財産庁(NOIP)の審査官には、外国語翻訳を検証する義務がありません。しかし、些細な翻訳ミスであっても、特許の権利行使可能性を損なったり、その権利範囲を歪めたりする可能性があります。したがって、FTO調査において潜在的な侵害リスクが検出された場合であっても、ベトナム語原文を精査することで、リスクが軽減または消滅する場合があります。このことは、法的・技術的専門性のみならず、両言語に精通し、かつ法律用語を熟知した知財パートナーの必要性を強く示しています。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 5. ベトナムにおけるFTO環境への対応:主要な構造的課題 データ透明性の制約:  ベトナムの公開特許データベース(例:IPVN)は、基本的な書誌事項や請求項情報を提供しているものの、特許が有効中か、失効済みか、または放棄されたのかといった法的ステータスに関する信頼できるデータを欠いています。この欠陥により、公開情報に基づく検索だけではFTO目的に十分とは言えません。最も正確かつ最新の記録は、通常、認可を受けた代理人または審査官に限定されており、利用に制約があります。その結果、信頼できる現地知財事務所との提携は選択肢ではなく、不可欠な要件です。独自データベースや現地での確認にアクセスしない限り、外国投資家は不完全または時代遅れの情報に基づいてFTO判断を下すリスクを負うことになります。 言語および翻訳に伴うリスク:  ベトナムにおける特許出願はすべてベトナム語で提出しなければならず、権利行使に関する判断もベトナム語版の明細書のみに依拠します。ベトナム知的財産庁(NOIP)の審査官には、外国語翻訳を検証する義務がありません。しかし、些細な翻訳ミスであっても、特許の権利行使可能性を損なったり、その権利範囲を歪めたりする可能性があります。したがって、FTO調査において潜在的な侵害リスクが検出された場合であっても、ベトナム語原文を精査することで、リスクが軽減または消滅する場合があります。このことは、法的・技術的専門性のみならず、両言語に精通し、かつ法律用語を熟知した知財パートナーの必要性を強く示しています。 事件名 法的争点 判決結果 戦略的示唆 Bayer SAS v. Công ty TNHH Thương mại Nông Phát 特許侵害 裁判所は被告に対し、侵害製品の製造および流通の停止を命じた。原告は弁護士費用のみを補償として請求。 損害賠償額が限定的であっても、民事訴訟は有効な手段となり得る。 European Pharma v. Vietnamese Infringer 医薬品特許侵害 裁判所は原告勝訴とし、製品の廃棄、法定上限の損害賠償金の支払、公的謝罪を命じた。 裁判所は外国専門家の意見を受け入れる姿勢があり、遅延戦術を容認しない。 欧州の製薬会社は、自社が保有する医薬品有効成分の結晶形態に関する特許を、ベトナム企業が侵害していることを発見した。当該会社の証拠は、ベトナムにおいて必要な試験能力が欠如していたため、フランスで実施されたX線回折試験に基づくものであった。被告は、特許無効審判請求を提出することにより、訴訟の遅延戦術を試みた。 裁判所は原告の主張を認め、複数の重要な先例を確立した。本件は、ベトナムの裁判所が初めて国外の専門家意見を証拠として受け入れた事例である。また、裁判所が初めて法定上限である5億ベトナムドン(約21,600米ドル)の損害賠償を認定した事案でもある。さらに注目すべきは、裁判所が特許無効請求に対する行政判断を待つことなく、民事訴訟を停止しなかった点であり、遅延戦術が裁判手続を妨害する手段として有効ではないことを示した。 本件は、ベトナムの民事裁判制度が知的財産権の執行において、より効果的かつ信頼性の高いチャネルへと発展しつつあること、そして同国が従来の制度的限界を積極的に克服しようとしていることを示す事例である。 結論:ベトナムにおけるFTOには、ローカライズされたリスク管理型ロードマップが必要 ベトナムにおける自由実施調査(FTO)の環境は、より実務的かつ精緻なアプローチへと移行しつつあります。企業は、従来型の公開検索のみに依拠して上市時の法的安全性を確保することはもはやできません。特許と実用新案という二重の阻害権利、侵害判断における「機能―方法―結果(F-W-R)」の均等論、審査および権利行使においてベトナム語明細書に必ず依拠しなければならない要件、さらに法的ステータスに関する公開データの透明性の制約を踏まえると、効果的なFTOには体系的なプロセスと適切な学際的チームが不可欠です。 FTOは適切に実施されれば、単なる防御的手段にとどまらず、戦略的なレバレッジとなります。企業はリスクを早期に把握・評価し、現地における法的ステータスを検証し、設計変更による回避策を実施するとともに、必要に応じて民事訴訟や行政的取締りの並行準備を行うことが可能です。 KENFOX IP & Law Officeは、ベトナムを代表する知的財産法律事務所の一つであり、特許、商標、意匠、著作権にわたる豊富な専門知識を有しています。当事務所は、弁護士と技術専門家からなる学際的チームを擁し、実務経験に裏付けられた強力な訴訟・執行能力を備えています。FTO調査、法的ステータス確認、法廷での代理、ライセンス交渉に至るまで、現地で検証されたベトナムの実データに基づき、クライアントが確実な意思決定を行えるよう支援いたします。 QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney [/vc_column_text][vc_column_text] PHAN, Do Thi | Special Counsel [/vc_column_text][vc_column_text] NGA, Dao Thi Thuy | Senior Patent Attorney [/vc_column_text][vc_column_text]Related Articles: How critical is...

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ベトナムにおける知的財産権保護 ― VIPRI のサービスと専門性に関するガイド

[vc_row triangle_shape="no"][vc_column][vc_column_text] ベトナムにおいて意匠、商標または特許権を行使するためには、権利者は「侵害要素」が存在すること、すなわち被疑侵害者の行為が商品の出所や役務の提供主体に関して需要者の混同を引き起こす可能性があるか否かを立証する必要があります。このような評価は高度に専門的な性質を有するため、ベトナムの執行当局および知的財産権者は、旧称ベトナム知的財産研究所(VIPRI)であり、現行では国家知的財産研究所(NIIP)と呼ばれる機関が発行する鑑定意見に依拠することが多くあります。 これらの鑑定意見は、行政手続および司法手続のいずれにおいても極めて重要な証拠として機能します。法的拘束力を有するものではないものの、科学技術省検査局、市場管理局、税関当局といった執行機関が執行措置を開始するか否かを判断するに際して大きな影響力を持ちます。また、裁判所も、特に複雑な技術的比較や混同のおそれの有無を判断する事案において、NIIP/VIPRI の鑑定意見を侵害主張の裏付けとして頻繁に採用しています。 KENFOX IP & Law Office は、知的財産権者が法的立場を強化し、効果的な救済措置(警告書送付、行政的制裁、損害賠償請求を含む民事救済等)を追求するために、NIIP/VIPRI の鑑定意見手続を理解し適切に活用するための包括的な指導を提供しています。 1. 国家知的財産研究所(NIIP、旧称 VIPRI)が提供するサービス 国家知的財産研究所(NIIP、旧称ベトナム知的財産研究所 VIPRI)は、科学技術省の下に設置された専門的な研究機関であり、工業所有権に関する侵害事案において鑑定意見を発行することにより、知的財産権の執行を支援する重要な役割を担っています。特に、発明、意匠、地理的表示、商標に関連する案件において、その専門性を発揮しています。 知的財産権者が潜在的な侵害に直面した場合、NIIP に対して技術的な鑑定を依頼することが可能です。この鑑定には、権利の保護範囲の明確化、対象物間の類似性の評価、侵害要素の特定、及び損害額の算定が含まれます。これらの鑑定意見は、行政手続や司法手続において補強証拠として頻繁に用いられています。 もっとも、人的・物的資源の制約により、現時点で NIIP が提供できるサービスは上記の分野に限定されています。そのため、商号、営業秘密、不正競争、著作権関連の問題については鑑定意見を提供していません。 2. ベトナムにおける知的財産権侵害の申立てを行う前に NIIP の鑑定意見を取得すべき理由 法的拘束力はないが極めて説得力があること:NIIP/VIPRI の鑑定意見は法的拘束力を有するものではありませんが、権利侵害に対する執行手続を開始する際には強く推奨されます。科学技術省の認定機関として、NIIP/VIPRI は知的財産に関する高度な専門性を有し、その評価は信頼性が高く、執行当局や裁判所において大きな影響力を持つと広く認識されています。 行政手続および司法手続における影響力:市場管理局、経済警察、科学技術省検査局などのベトナムの執行機関は、侵害主張の当否を判断する際に NIIP/VIPRI の意見に依拠することが少なくありません。知的財産法の複雑性を踏まえ、これらの鑑定は技術的問題を明確にし、執行判断を導き、裁判所の法的推論を補強する役割を果たします。 知的財産権者にとっての戦略的ツール:NIIP/VIPRI の鑑定意見は、紛争解決や侵害抑止のために積極的に活用することができます。多くの知的財産権者は、この鑑定を警告書(Cease & Desist Letter)に添付し、それによって侵害者が自発的に行為を中止する例も少なくありません。KENFOX IP & Law Office も、NIIP の裏付けとなる証拠を基礎に、正式な訴訟に至ることなく迅速かつ有利な結果を獲得した事例を多数取り扱っています。 最終的判断ではないことに留意すべきであること:NIIP/VIPRI が「侵害なし」との鑑定を下したとしても、必ずしもベトナムの執行当局が商標侵害事案の処理を拒絶することにはつながりません。執行当局は、VIPRI の評価にかかわらず侵害があると判断する場合もあります。さらに、知的財産権の保護範囲は個々の事案の具体的事実や状況により異なるため、VIPRI の鑑定意見が常に全ての事案に適用されるとは限りません。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 3.1. ベトナムにおいて NIIP/VIPRI が「登録商標」に関する知的財産権侵害を認定するために採る手順 ベトナムにおいて、NIIP(旧称 VIPRI)は「鑑定結論」と呼ばれる専門意見を発行し、商標侵害紛争を評価する際に裁判所や執行当局にとって極めて重要な証拠として用いられます。これらは法的拘束力を有するものではないものの、高い説得力を持ちます。 NIIP/VIPRI は通常、以下の4段階の手順に従って鑑定を行います。 ステップ1:権利および法的枠組みの確認 申請者がベトナムにおける有効な商標登録を有していることを確認する。 保護範囲(商標構成要素、ニース分類における指定商品・役務)を特定する。 鑑定が知的財産法(2005年法、2022年改正)、政令第65/2023/ND-CP(第77条)、および通達第11/2015/TT-BKHCN(第13条)に基づいて行われることを確認する。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] ステップ2:証拠の検討 申請者から提出された証拠(被疑侵害標章の見本を含む)を精査する。 問題となっている標章が使用されている商品・役務を特定し、関連する市場情報や流通に関する補助的資料を収集する。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] ステップ3:比較および混同のおそれの分析 この段階は鑑定の核心部分であり、NIIP/VIPRI は構造化された比較方法を適用します。 外観・称呼・観念の比較:形態、文字、デザイン、色彩、発音、音節構造、意味内容を検討する。識別力・支配的要素を優先し、記述的または一般的な差異は考慮しない。 商品・役務の比較:商品・役務が同一、類似または関連しているかを判断する。その際、性質、機能、目的、製造工程、流通経路、需要者層を考慮する。 混同のおそれの判断:標章および商品・役務の類似性が、需要者に出所の誤認を生じさせる可能性があるかを判断する。通達第13条に基づき、混同可能性は、保護範囲(全体または一部)、構成要素の識別力、需要者の認識、注意力の程度、販売・流通実務、さらに任意で実際の混同の証拠をもとに評価される。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 特則: 標章および商品・役務が同一である場合、混同のおそれは推定される。 周知商標については、異なる商品・役務に使用された場合でも、混同または提携関係にあるとの誤認を引き起こすときは侵害と認定され得る。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] ステップ4:鑑定意見の発行 NIIP/VIPRI は書面による鑑定報告書を発行する。 報告書には、関連する法令の引用、比較過程の詳細、判断理由が記載され、争点となる標章が侵害要素を含む(すなわち登録商標と同一または混同を生じさせる類似である)か否かについて結論が示される。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 3.2. 商標の保護範囲を評価する際に NIIP/VIPRI が直面する課題とその対応方法 実務において、NIIP/VIPRI は商標の保護範囲を評価する際にいくつかの課題に直面します。これらは、商標法の本質的な複雑性およびベトナムにおける執行環境に起因するものです。代表的な課題は以下のとおりです。 識別力のある要素に関する曖昧性:一部の商標は、識別力のある要素と識別力のない要素(例:記述的な語+図案化された要素)の両方で構成されています。比較の際に、どの要素が強い保護に値するか、または無視されるべきかを定義することが課題となります。 商品・役務の重複:ニース分類は商品・役務を大まかに区分していますが、実務上は「飲料」と「アルコール飲料」などの重複が存在し、これらが「混同を生じさせるほど類似」しているか否かを判断することが難しい場合があります。 類似と模倣の区別:二つの標章が単なる類似にとどまるのか、あるいは需要者を混同させるほどの類似(混同を生じさせる類似)に該当するのかの判断は、しばしば主観的評価を伴います。わずかなデザインや称呼の違いによって、その境界は不明確になることがあります。 周知商標および希釈化の問題:周知商標を評価する場合、保護は登録された区分を超えて及ぶ可能性があります。「周知」性の判断基準(認知度、使用の範囲、広告活動、需要者調査等)を適用することが課題となります。 判例の不足および執行の不統一:ベトナムには充実した一貫性のある判例法体系が存在しません。そのため、裁判所や行政機関が類似の事案で異なる判断を下すことがあり、VIPRI が評価基準の統一を維持することが困難となっています。 市場実務の進化:オンラインプラットフォーム、越境電子商取引、ソーシャルメディアの台頭に伴い、侵害行為は従来の商品・役務のカテゴリーを超えて発生することが多くなっています。これにより、保護範囲の評価は一層複雑化しています。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 3.3. ベトナムにおいて商標権者が NIIP/VIPRI の鑑定結論を活用して商標権を保護・行使する方法 ベトナムの商標権者は、NIIP/VIPRI の鑑定結論を戦略的に活用することで、複数の段階において知的財産権の保護および権利行使を強化することができます。 商標出願戦略:NIIP/VIPRI の鑑定は、提案された商標の識別力や登録可能性を評価し、既存商標との潜在的な抵触を特定するのに役立ちます。この見解により、商標権者は出願書類を知的財産庁に提出する前に適切に修正することができ、登録成功の可能性を高めることができます。 抵触する出願への異議申立て:第三者が同一または混同を生じさせる類似の商標を出願した場合、NIIP/VIPRI の鑑定結論は異議申立手続における有力な証拠となります。これにより、新規出願が需要者に混同を引き起こし、既存権利を侵害する可能性があることを主張する根拠を強化します。 侵害者に対する法的執行:無断使用が発生した場合、NIIP/VIPRI の専門意見は、標章の類似性や混同のおそれを立証することにより、侵害の主張を裏付けるものとなります。これらの結論は、行政手続や民事訴訟において、権利の帰属を確認し、執行措置を支えるために頻繁に活用されます。 警告書(Cease and Desist Letter)の送付:VIPRI の鑑定結論は、商標侵害紛争を直ちに訴訟に持ち込むことなく解決するための強力な手段となります。戦略的に作成された警告書は、被疑侵害者に対し侵害行為の即時停止を要求するものですが、これに VIPRI の正式な専門意見を添付することにより、侵害の証拠として強い説得力を持たせることができます。両者を組み合わせることで、商標権者の法的権利を明確に主張し、執行の意思を示すこととなり、多くの場合、迅速な解決に至り、費用のかかる訴訟を回避する効果があります。 ライセンス契約および商業交渉:NIIP/VIPRI の鑑定結論は、商標の使用を希望する第三者とのライセンス契約交渉においても利用可能です。鑑定結論は商標の価値や保護範囲、ライセンス条件を明確にする根拠として用いることができ、交渉の基盤を提供します。 [/vc_column_text][vc_empty_space height="13px"][vc_column_text] 4. ベトナムにおいて NIIP(旧称 VIPRI)が「特許発明」に侵害要素が存在するとの専門意見を導く方法 ベトナムにおいて、NIIP(旧称 VIPRI)は、特許発明に侵害があるか否かについて「鑑定結論」と呼ばれる専門意見を発行する権限を有しています。これらの鑑定は法的拘束力を有するものではないものの、執行当局および裁判所において極めて大きな影響力を持ちます。本手続は、知的財産法(2005年法、2022年改正)、政令第65/2023/ND-CP(第74条)、通達第11/2015/TT-BKHCN(第11条)に基づいて構造化されています。 NIIP/VIPRI...

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