「Balizam」商標紛争 ― 国際的提携における国内企業への高額な代償と厳しい警鐘
中国企業が外国ブランドの開発に5,000万人民元以上を投資し、流通ネットワークを構築し、製品を宣伝し、ロシアのパートナーから中国における商標登録を正式に許諾する旨の「Letter of Authorization(授権書)」を受領した場合、それでもなお、たった一度の再審判決で商標のすべての所有権を失うことがあり得るのでしょうか。
中国最高人民法院は、Chuanfeng Company(China)とBarizam Company(Russia)との間で争われた「Balizam」商標シリーズの所有権紛争において、画期的な判決を下しました。同法院は下級審のすべての判決を覆し、中国に登録されていた「Balizam」商標がBarizam Company(Russia)に正当に帰属することを認定しました。さらに、これら商標を真正な権利者に移転するよう命じ、この予期せぬ逆転劇は、ビジネス界に大きな衝撃を与えました。
本件は単なる長期化した法廷闘争にとどまらず、外国パートナーと共同でブランド開発を行う国内企業に対する警鐘ともなりました。一見すると安定していたパートナーシップが、企業再編を経て破綻し、最終的には判決によって完全に結果が覆された本件「Balizam」紛争は、次のような切迫した問いを投げかけています。商標の使用権と所有権との境界はどこにあるのか。これはChuanfeng Company(China)にとって苦い終焉なのか、それとも国際的事業提携において、将来を見据えた透明で適切に起草された契約の必要性を示す深い法的教訓なのか。
中国における初期協力および市場参入戦略
1990年代後半、Chuanfeng Company(China)は、輸出入および国境を越えた貿易に従事する企業として、ロシアへの経済・貿易使節団に参加した際、ウスリースクに所在するBalizam Company(以下「Balizam Company(Russia)」という)が製造する著名なアルコール飲料ブランド「Balizam」を発見しました。「Balizam」はロシア国内において高い評価と消費者からの厚い信頼を有しており、Chuanfeng Company(China)はこれを中国市場進出の有望な機会として迅速に見出しました。
長期にわたる交渉を経て、2003年初頭、当事者間で正式に協力契約が締結され、これによりChuanfeng Company(China)は中国国内における「Balizam」ブランドのアルコール飲料の独占販売権を付与されました。単なる商業的流通を超えて、2003年5月には、両当事者は中国において製造合弁事業を設立することで協力関係をさらに深化させました。この合弁事業の枠組みにおいて、Balizam Company(Russia)は、生産設備の提供、技術移転、および原材料の供給を行うことを約し、これにより「Balizam」製品の中国市場における現地生産の基盤が確立されました。
「Balizam Tiger Head」:中国市場における飛躍的展開
合弁事業の設立後、「Tiger Head – 」版のBalizam製品ラインが正式に中国で発売されました。本製品は、ロシア製品の品質とChuanfeng Company(China)が有する中国市場に関する深い知見とを融合させたブランド現地化戦略の成果でした。
Chuanfeng Company(China)は、ブランド発展に対する強い意欲を示し、マーケティング活動、流通ネットワークの構築、市場カバレッジの拡大に多大な資源を投入しました。体系的かつ効果的な販売促進戦略を通じて、「Balizam Tiger Head」は中国において急速に高い消費者認知度を獲得し、年間売上高においても安定した成長を記録しました。
ブランド開発キャンペーンが最盛期を迎えた時点で、Chuanfeng Company(China)はブランドプロモーションおよび流通ネットワーク拡張に5,000万人民元以上を投資していました。しかし、急速な成功は同時に課題ももたらしました。市場需要が供給能力を大きく上回り、同社は深刻な製品不足の状況に陥ることとなったのです。
協力関係の破綻:適法な授権から所有権紛争へ
2004年、Chuanfeng Company(China)は、市場浸透の拡大およびブランド・ポジショニングの強化を目的として、「Tiger Head」ロゴの商標保護を中国で積極的に出願しました。特筆すべきは、この登録が明確な法的根拠に基づいていた点です。すなわち、Balizam Company(Russia)が公式な二言語による「Letter of Authorization(授権書)」を発行し、Chuanfeng Company(China)に対し、中国において関連商標を登録・使用する権利を付与していたのです。
この授権に基づき、Chuanfeng Company(China)は、中国語およびロシア語表記による「Balizam」の文字商標と「Tiger Head」ロゴを登録しました。この期間中、すべての事業運営、流通活動および製品のマーケティングはChuanfeng Company(China)という法人名義で行われ、両当事者間の緊密な協力関係と相互信頼が如実に反映されていました。
しかし、Balizam Company(Russia)が企業再編を行い、国有企業から株式会社化して上場企業へと移行したことを契機に、事態は転換点を迎えました。この再編後、Balizam Company(Russia)は突如としてChuanfeng Company(China)とのパートナーシップを一方的に終了させようとしましたが、この動きはChuanfeng Company(China)によって断固拒否され、緊張が高まり法的紛争へと発展しました。さらに、Balizam Company(Russia)が製品供給を突如停止したことにより事態は一層深刻化し、長期的戦略的提携として構想されていた関係は事実上終焉を迎えることとなりました。
訴訟手続:所有権および授権の有効性をめぐる紛争
2013年、Balizam Company(Russia)は中国において正式に訴訟を提起し、Chuanfeng Company(China)に付与された従前の「Letter of Authorization(授権書)」を無効とするよう裁判所に請求しました。原告はまた、関連商標の所有権移転を求め、さらにChuanfeng Company(China)による当該商標の使用が知的財産権侵害に該当するとしてその認定を請求しました。
Balizam Company(Russia)は、両当事者間で締結された相互契約終了合意により、当初の授権は無効となったと主張しました。さらに、授権書の中国語版とロシア語版との間に相違が存在するため、発行者の原言語であるロシア語版を優先すべきであると主張しました。
しかし、ハルビン市中級人民法院はBalizam Company(Russia)のすべての請求を棄却しました。この判断は2017年、黒竜江省高級人民法院によって支持されました。同高院は明確な理由を示し、終了合意は当初の授権書の法的有効性に影響を及ぼさず、かつ授権書の両言語版は、中国における商標登録および使用の権利をChuanfeng Company(China)に付与する旨で一致していると認定しました。
また、高級人民法院は、Balizam Company(Russia)がロシア国内における商標所有権を保持している一方で、中国における当該商標の登録は、明確かつ法的に執行可能な授権書に基づきChuanfeng Company(China)によって適法に取得されたものであることを確認しました。本判決は、知的財産権における「属地主義」の原則を再確認するとともに、国境を越える商取引における二言語による授権書の法的地位を明確にするものでした。
最高人民法院における再審:授権書の法的性質の明確化
2020年の再審判決において、中国最高人民法院(SPC)は、Balizam Company(Russia)が発行した中国語版「Letter of Authorization(授権書)」の法的有効性の分析と明確化に焦点を当て、同種紛争に対する先例的な解釈を提示しました。
同法院は、当該授権書がBalizamによって単独で作成された一方的な民事法律行為であり、双務契約ではないことを認定しました。すなわち、授権という行為は、一方的な意思表示によって法律関係を設定・変更または終了させるものであり、被授権者がこれを受諾するか否かにかかわらず、その意思表示がなされた時点で効力を生じます。
仮に当該文書に双方の署名が存在する場合であっても、その法的性質は変わらず、一方的行為にとどまることを同法院は強調しました。被授権者の署名は単に授権書を受領したことを確認するものであり、民事契約におけるような相互的義務を創設するものではありません。
このSPCの判決は、当該個別紛争を解決したのみならず、国際取引における一方的行為、特に知的財産権に関連する授権文書(Letter of Authorization)の法的理解の形成において重要な役割を果たしました。
有効性の確認:最高人民法院による授権書の法的価値に関する解釈
再審手続において、中国最高人民法院(SPC)は、Balizam Company(Russia)が発行した「Letter of Authorization(授権書)」の法的有効性および性質を明確化するため、詳細な認定を行いました。同法院が記録した主要なポイントは以下のとおりです。
- 署名および印章:当該授権書にはBalizam Company(Russia)の署名および公式印章のみが付されており、これにより本件文書が当事者間の相互合意ではなく、一方的な法律行為であることが明白に示されていました。
- 題名および本文:文書の題名および本文は、BalizamがChuanfeng Company(China)に対し、中国における商標登録を一方的に授権する意思を明確に示しており、被授権者側からの拘束的条件や相互的義務は一切含まれていませんでした。
- 法的効力:当該授権は、授権者であるBalizam Company(Russia)の意思のみに基づき効力を生じるものであり、取消しまたは変更の場合には、授権者は被授権者に通知する義務を負い、透明性を確保し法的損害を防止しなければなりません。
さらに、SPCは下級審が本授権書を双務契約と誤認した判断を退けました。同法院は、Balizam Company(Russia)が主張した文書の一方的性質自体は認めつつも、その法的効果に関する原告の主張、特に授権の無効化および商標所有権移転の請求についてはこれを認めませんでした。
本判決は、民事取引における一方的法律行為を規律する法原則を明確化しただけでなく、国際的な法的文脈、特に知的財産権に関わる授権文書における安定性および予測可能性を強化するものでした。
最終判決:Balizam Company(Russia)による商標所有権の確認
中国最高人民法院は、下級審が下したすべての先行判決を覆し、最終的かつ明確な宣言を行いました。それは、中国における「Balizam」標章に関連するすべての商標登録および所有権は、Balizam Company(Russia)に帰属するというものです。本判決により、長期にわたる紛争は終結し、国際的協力関係における商標所有権の帰属に関する重要な法原則が確立されました。
国内企業への実務的教訓
「Balizam」商標紛争は、国境を越えた事業提携における複雑性と潜在的リスクを如実に示す事例です。Chuanfeng Company(China)は、中国におけるブランド開発、流通ネットワーク構築、製品プロモーションに5,000万人民元以上を投資しました。同社は、Balizam Company(Russia)から発行された有効な「Letter of Authorization(授権書)」の下で事業を行い、これが中国での商標登録の法的根拠となっていました。訴訟手続を通じて、下級審は一貫してChuanfeng Company(China)の商標登録の適法性を認めていました。
しかし、最終的に中国最高人民法院はこれらの判断を覆し、商標の所有権はBalizam Company(Russia)に留まると認定しました。その中核的理由は授権書の法的性質にありました。すなわち、授権書は一方的な法律行為であっても、所有権を移転するものではなく、登録のみでは所有権は取得できないということです。同法院は、パートナーシップ終了後に商標の不正取得や投機的行為が生じ得る場合における、原始的知的財産権の保護を強調しました。
本件は中国で発生した事案ですが、外国企業と提携してブランドを開発するあらゆる法域の企業に対し、強い警鐘を鳴らすものです。
- 授権書のみに依拠しないこと:たとえ法的に有効であっても、授権書は知的財産権を規律する包括的契約の代替とはなりません。企業は、所有権、使用権、譲渡性、契約終了後の条件等を正式契約において明確に定める必要があります。
- 国際的な法的執行力を有する強固な二言語契約の作成:契約条項は法的専門知識をもって精緻に起草し、言語間での内容の一致を確保して解釈上の紛争を防止すべきです。明確な法的文言は、複数法域における執行可能性のために不可欠です。
- 協力関係終了時のリスクを予測すること:特に商標等の知的財産資産の取扱いについて、パートナー企業の再編、戦略変更または協力終了時に備えた明確な法的枠組みを整備する必要があります。
現代のグローバル化した環境において、国際協力によるブランド開発は不可避の潮流です。しかし、Balizam事件のように「高い代償」を払わないためにも、ベトナム企業は法的知識を十分に備え、協力のための強固な基盤を築き、知的財産の所有権をすべての契約の中心に据えるべきです。これは単なる法的教訓ではなく、世界展開を目指す企業にとっての生存戦略でもあります。
HUONG, Ngo Thu | Partner
SU, Do Van | Associate
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