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ベトナムにおける自由実施調査(FTO):製品上市前にFTOを行うべき理由と方法

FTO 調査を行わずにベトナムで製品を上市することは、まるでヘッドライトを消したまま夜道を走るようなものです。可能ではあるものの、極めて危険かつ高コストになり得ます。ベトナムは実用新案制度(Utility Solutions)を採用しており、侵害判断において強力な均等論(Doctrine of Equivalents)が適用されるほか、広範な「ボーラー型」(Bolar-type)承認例外も存在します。これらの制度が企業に有利に働くのか、それとも不利に働くのかを把握することが、製品の上市成功の可否を左右します。

ベトナム市場への参入を検討する外国企業にとって、自由実施調査(FTO)の実施は単なる形式的な手続きではなく、リスク軽減および戦略的事業計画のために不可欠な積極的ツールです。グローバル・サプライチェーンへの統合が進み、外国直接投資(FDI)を積極的に誘致するベトナムにおいて、FTO 調査は不可欠です。このデューデリジェンスを怠ることは、特許侵害訴訟や企業イメージの毀損といった重大な法的・財務的リスクに企業を晒すことになります。なぜなら、FTO は本質的に「防御的戦略」であり、他者の特許権を侵害しないことを目的とするもので、自ら特許を取得することとは根本的に異なるからです。

1. 自由実施調査(FTO)とは何か

自由実施調査(Freedom-to-Operate, FTO)、別名クリアランス調査または侵害調査とは、ある製品・プロセス・技術が、特定の国において他者の有効かつ強制力を持つ特許権を侵害することなく製造・使用・販売できるか否かを判断するための徹底的な調査を指します。通常の特許調査とは異なり、FTO 分析は「存続中の権利」に焦点を当て、現在有効な特許権および将来有効となり得る出願中の特許を対象とします。主たる目的は、市場参入や製品上市前に侵害リスクを評価・軽減することにあります。

FTO プロセスは単なる法律上の形式ではなく、基本的な経営戦略の一環です。製品が完成してから調査を行う姿勢は、既存特許により市場参入が阻止される可能性を見過ごし、多額の投資を危険に晒すリスクを伴います。研究開発の初期段階で FTO 分析を導入する企業は、その結果を基に設計を調整したり、製品計画を修正したり、潜在的な紛争を回避するための代替的なイノベーションを実行することが可能となります。さらに、精緻に実施された FTO 調査は、投資家にとって重要な評価要素であり、デューデリジェンスの過程でリスクを低減させ、投資判断に安心感を与えることで資金調達の円滑化にも寄与します。

2. ベトナムにおいて独自のFTOアプローチが求められる理由

ベトナムの知的財産権制度は、他国とは異なる固有の複雑性を有しており、個別に調整された自由実施調査(FTO)アプローチが不可欠です。

二重の権利による阻害要因

ベトナムでは、発明特許(存続期間20年)と実用新案(存続期間10年)の双方が保護対象とされています。実用新案は進歩性要件が緩やかであるため取得が容易であり、単に「特許」のみを調査対象とした場合には見落とされるリスクが高いのが実情です。ベトナム市場に対応したFTOでは、両方の権利形態を調査・分析する必要があり、これを怠ると誤った安心感を持ち、重大かつ潜在的な侵害リスクに直面する可能性があります。外国企業にとって、この二重構造は包括的な調査を必須とする要因となっています。

均等論の適用

ベトナムにおける侵害判断では、国家知的財産研究所(NIIP、旧VIPRI)が提供する専門家意見が重視され、そこでは「機能―方法―結果(F-W-R)」による分析が用いられています。この均等論の適用により、特許請求項の文言に文字通り該当しない場合であっても、「実質的に同一の機能を、実質的に同一の方法で実行し、実質的に同一の結果を生じさせる」場合には侵害と認定され得ます。したがって、設計をわずかに変更するいわゆる「回避設計」も依然として侵害と評価される可能性があり、FTO分析においては極めて重要な考慮要素となります。特にNIIPが示す専門家意見は、法的手続において強い説得力を持ちます。

特許期間延長制度(PTE)の不存在

ベトナムには、他国に見られる一般的な特許期間延長制度(Patent Term Extension, PTE)は存在しません。発明特許は出願日から20年間存続しますが、審査に要する期間により実効的な商業利用期間が短縮される場合があります。ただし、注目すべき点として、政令第65号(Decree No. 65/2023/ND-CP)は、医薬品分野において販売承認取得が遅延した場合に限り、特許権者に補償を認める仕組みを導入しています。これは、医薬品企業が製品上市のタイミングや市場参入リスクを検討する際に重要な要素となります。

ベトナム特有のFTO要件

したがって、PCT/米国/EUに基づく形式的なFTO調査をそのままベトナムに適用することは不十分です。ベトナムでは、①特許と実用新案の両方を対象とした調査、②NIIP流のF-W-R均等論分析、③PTEの存在しない医薬品分野における上市タイミングの検討、これら三要素を調査フローに組み込む必要があります。これにより、実際の法的リスクを適切に評価・管理した実務的なFTO判断が可能となります。

3. ベトナム特有の7段階FTO手法

ベトナムにおいて包括的かつ正確な自由実施調査(FTO)を行うためには、信頼できる現地の知的財産法律事務所の専門性が不可欠です。これは単なる推奨事項ではなく、戦略上の必須要件です。たとえば KENFOX IP & Law Office のような事務所は、独自の内部データベースを保有し、元ベトナム知的財産庁(VNIPO)審査官を含む経験豊富な専門家を擁しており、一般公開されている検索エンジンでは得られない技術的知見と深いローカル知識を備えています。このようなパートナーシップは、手続上の主要な課題を軽減し、調査が最も完全かつ正確な情報に基づいて実施されることを保証する基盤となります。

ベトナムにおける専門的なFTO調査は、単なるキーワード検索を超えた体系的なプロセスであり、同国特有の法制度や機関環境を十分に考慮した個別対応型のアプローチを必要とします。包括的なFTO調査における典型的なワークフローは、以下の7つの段階で構成されます。

ステップ1:定義: 分析対象となる製品またはプロセスを精緻に定義することから開始します。その特徴を分解し、構成要素や工程を特許請求項に対応付けることで、調査範囲を広くかつ正確に設定することが可能となります。

ステップ2:適切なデータベースの検索: 調査は多角的に行う必要があります。具体的には、ベトナム知的財産庁(IPVN)の公式オンラインポータルである WIPO-Publish を利用することが必須です。さらに、リージョナルな視点や法的ステータス確認には ASEAN IP Register が有用です。加えて、WIPO PATENTSCOPE のような国際データベースを用いて、特にPCTルートを通じてベトナムに進入する特許ファミリーや国内移行案件を特定することが極めて重要です。

ステップ3:広範な検索: ベトナムの知財制度は、発明特許と実用新案という二つの権利形態を有するため、双方を対象とした調査が不可欠です。国際特許分類(IPC)コード、英語およびベトナム語によるキーワード、権利者や特許ファミリー単位など、複数の基準を用いて検索を行う必要があります。

ステップ4:法的ステータスと存続期間の確認: FTO調査の価値は、発見された特許の現行ステータスに依存します。特許が登録済みか出願中か、年金が支払われ存続中かを確認することが不可欠です。発明特許は出願日から20年間有効ですが、ベトナムには一般的な特許期間延長制度(PTE)が存在しません。公的データベースでは情報が不足することが多いため、現地専門家の知見が不可欠となります。

ステップ5:請求項の読解(均等論を含む: これはFTO分析の核心部分です。特許の請求項を精査し、その保護範囲を理解する必要があります。単なる文言解釈にとどまらず、国家知的財産研究所(NIIP、旧VIPRI)が用いる「機能―方法―結果(F-W-R)」アプローチによる均等論の適用を考慮しなければなりません。製品の要素と潜在的に阻害となる特許請求項を対比させたクレームチャートの作成は、標準的かつ有効な実務手法です。

ステップ6:例外および抗弁の考慮: 包括的なFTO報告書には、侵害主張に対する潜在的抗弁を含める必要があります。ベトナムにおける主要な例外は以下のとおりです。

  • ボーラー例外/規制承認:国際的に広く認められる医薬品分野のボーラー例外に加え、ベトナム法制では規制承認遅延を受けた特許権者に対する限定的な補償制度が導入されており、製薬・医療機器企業にとって重要な考慮要素となります。
  • 出願公開後の暫定的権利:特許出願が公開された場合、後に特許が成立したときには、出願人が通知を行った後にその発明を使用した第三者に対して合理的な補償を請求できる可能性があります。
  • 並行輸入(権利消尽):ベトナムは国際消尽制度を採用しており、特許権者またはその同意を得た者が世界のいずれかの国で適法に販売した製品については、再販売や輸入を特許権者が禁止できません。
  • 先使用権:出願日前に善意で当該発明を使用していた者は、その使用の範囲および規模において引き続き使用を継続する権利を有します。

ステップ7:リスク評価と軽減策: 最終段階では、全ての調査結果を統合し、明確なリスク評価(高・中・低)を提示した上で戦略的提言を行います。軽減策には、製品設計の変更による「回避設計」、特許権者とのライセンス交渉、あるいは阻害特許の有効性を争うことが含まれます。なお、2022年改正知的財産法により、実施可能要件の欠如や開示範囲を超える請求など、新たな特許無効理由が追加されており、戦略的抗弁の一環として活用可能です。

4. ベトナムにおけるFTO環境への対応:主要な構造的課題

  • データ透明性の制約: ベトナムの公開特許データベース(例:IPVN)は、基本的な書誌事項や請求項情報を提供しているものの、特許が有効中か、失効済みか、または放棄されたのかといった法的ステータスに関する信頼できるデータを欠いています。この欠陥により、公開情報に基づく検索だけではFTO目的に十分とは言えません。最も正確かつ最新の記録は、通常、認可を受けた代理人または審査官に限定されており、利用に制約があります。その結果、信頼できる現地知財事務所との提携は選択肢ではなく、不可欠な要件です。独自データベースや現地での確認にアクセスしない限り、外国投資家は不完全または時代遅れの情報に基づいてFTO判断を下すリスクを負うことになります。
  • 言語および翻訳に伴うリスク: ベトナムにおける特許出願はすべてベトナム語で提出しなければならず、権利行使に関する判断もベトナム語版の明細書のみに依拠します。ベトナム知的財産庁(NOIP)の審査官には、外国語翻訳を検証する義務がありません。しかし、些細な翻訳ミスであっても、特許の権利行使可能性を損なったり、その権利範囲を歪めたりする可能性があります。したがって、FTO調査において潜在的な侵害リスクが検出された場合であっても、ベトナム語原文を精査することで、リスクが軽減または消滅する場合があります。このことは、法的・技術的専門性のみならず、両言語に精通し、かつ法律用語を熟知した知財パートナーの必要性を強く示しています。

5. ベトナムにおけるFTO環境への対応:主要な構造的課題

  • データ透明性の制約:  ベトナムの公開特許データベース(例:IPVN)は、基本的な書誌事項や請求項情報を提供しているものの、特許が有効中か、失効済みか、または放棄されたのかといった法的ステータスに関する信頼できるデータを欠いています。この欠陥により、公開情報に基づく検索だけではFTO目的に十分とは言えません。最も正確かつ最新の記録は、通常、認可を受けた代理人または審査官に限定されており、利用に制約があります。その結果、信頼できる現地知財事務所との提携は選択肢ではなく、不可欠な要件です。独自データベースや現地での確認にアクセスしない限り、外国投資家は不完全または時代遅れの情報に基づいてFTO判断を下すリスクを負うことになります。
  • 言語および翻訳に伴うリスク:  ベトナムにおける特許出願はすべてベトナム語で提出しなければならず、権利行使に関する判断もベトナム語版の明細書のみに依拠します。ベトナム知的財産庁(NOIP)の審査官には、外国語翻訳を検証する義務がありません。しかし、些細な翻訳ミスであっても、特許の権利行使可能性を損なったり、その権利範囲を歪めたりする可能性があります。したがって、FTO調査において潜在的な侵害リスクが検出された場合であっても、ベトナム語原文を精査することで、リスクが軽減または消滅する場合があります。このことは、法的・技術的専門性のみならず、両言語に精通し、かつ法律用語を熟知した知財パートナーの必要性を強く示しています。
事件名法的争点判決結果戦略的示唆
Bayer SAS v. Công ty TNHH Thương mại Nông Phát特許侵害裁判所は被告に対し、侵害製品の製造および流通の停止を命じた。原告は弁護士費用のみを補償として請求。損害賠償額が限定的であっても、民事訴訟は有効な手段となり得る。
European Pharma v. Vietnamese Infringer医薬品特許侵害裁判所は原告勝訴とし、製品の廃棄、法定上限の損害賠償金の支払、公的謝罪を命じた。裁判所は外国専門家の意見を受け入れる姿勢があり、遅延戦術を容認しない。

欧州の製薬会社は、自社が保有する医薬品有効成分の結晶形態に関する特許を、ベトナム企業が侵害していることを発見した。当該会社の証拠は、ベトナムにおいて必要な試験能力が欠如していたため、フランスで実施されたX線回折試験に基づくものであった。被告は、特許無効審判請求を提出することにより、訴訟の遅延戦術を試みた。

裁判所は原告の主張を認め、複数の重要な先例を確立した。本件は、ベトナムの裁判所が初めて国外の専門家意見を証拠として受け入れた事例である。また、裁判所が初めて法定上限である5億ベトナムドン(約21,600米ドル)の損害賠償を認定した事案でもある。さらに注目すべきは、裁判所が特許無効請求に対する行政判断を待つことなく、民事訴訟を停止しなかった点であり、遅延戦術が裁判手続を妨害する手段として有効ではないことを示した。

本件は、ベトナムの民事裁判制度が知的財産権の執行において、より効果的かつ信頼性の高いチャネルへと発展しつつあること、そして同国が従来の制度的限界を積極的に克服しようとしていることを示す事例である。

結論:ベトナムにおけるFTOには、ローカライズされたリスク管理型ロードマップが必要

ベトナムにおける自由実施調査(FTO)の環境は、より実務的かつ精緻なアプローチへと移行しつつあります。企業は、従来型の公開検索のみに依拠して上市時の法的安全性を確保することはもはやできません。特許と実用新案という二重の阻害権利、侵害判断における「機能―方法―結果(F-W-R)」の均等論、審査および権利行使においてベトナム語明細書に必ず依拠しなければならない要件、さらに法的ステータスに関する公開データの透明性の制約を踏まえると、効果的なFTOには体系的なプロセスと適切な学際的チームが不可欠です。

FTOは適切に実施されれば、単なる防御的手段にとどまらず、戦略的なレバレッジとなります。企業はリスクを早期に把握・評価し、現地における法的ステータスを検証し、設計変更による回避策を実施するとともに、必要に応じて民事訴訟や行政的取締りの並行準備を行うことが可能です。

KENFOX IP & Law Officeは、ベトナムを代表する知的財産法律事務所の一つであり、特許、商標、意匠、著作権にわたる豊富な専門知識を有しています。当事務所は、弁護士と技術専門家からなる学際的チームを擁し、実務経験に裏付けられた強力な訴訟・執行能力を備えています。FTO調査、法的ステータス確認、法廷での代理、ライセンス交渉に至るまで、現地で検証されたベトナムの実データに基づき、クライアントが確実な意思決定を行えるよう支援いたします。

QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney

PHAN, Do Thi | Special Counsel

NGA, Dao Thi Thuy | Senior Patent Attorney