『類似』製品包装:ベトナムにおける不正競争および著作権法制の下での対処方法
ベトナムの消費財市場は急速に拡大しており、その成長は模倣行為を誘発している。ベトナムに投資する多くの中国系ブランドは、製品が店頭に並んで間もなく、競合他社が外観の類似した包装を用いた商品を投入してくることを経験している。かかる模倣は、ブランド価値を希釈するのみならず、消費者を誤認させ、販売を侵食するおそれがある。
KENFOX IP & Law Office は、ベトナムの不正競争規制および著作権法制を活用して「類似」包装に対抗する法的手段を分析し、実務上の事例を提示するとともに、ベトナムでの販売を計画する中国系多国籍企業に対し、実務的な指針を提供する。
「包装が重要である理由 – そして模倣される理由」
製品包装は単なる装飾ではなく、商品の出所を表示する役割を有する。著名な事業者が新たな包装を導入すると、模倣品がほぼ即時に出現することが少なくない。競合は不当利得の動機づけを受けやすく、商標または意匠の権利化が係属中である場合、ベトナムの執行当局は対応に慎重な姿勢を示しがちである。複製の容易性と登録手続の緩慢さが相まって、正式な権利保護が確立される前に、類似品が市場に氾濫しうる。
したがって、ベトナム市場に参入する中国企業、特に日用消費財、化粧品、健康補助食品分野の事業者は、当初段階から自社の「トレードドレス」(包装の全体的外観・印象)の保護を計画すべきである。何ら措置を講じないことは不正競争を招き、投資価値を損ない、その後の権利行使を一層困難にする。
「包装を保護するための法的枠組み」
包装は、ベトナム法の下で複数の法領域により保護され得る。すなわち、著作権法(応用美術の著作物として)、商標法および意匠法(総称して「産業財産」)、並びに不正競争法である。これらの相互関係を理解することは、実効的なエンフォースメント戦略の構築に不可欠である。
「不正競争法(知的財産法第130条)」
ベトナムの知的財産法は、知的財産の文脈における「不正競争」を限定的に定義している。2005年知的財産法(改正を含む)第130条は、不正競争行為として評価される行為類型を列挙し、事業主体又は商品の商業的出所、または商品の原産地・特性について混同を生じさせる商業表示の使用を禁止する。「商業表示」には、商標、商号、ビジネスシンボル、ビジネススローガン、地理的表示、並びに包装デザイン及びラベルデザインが含まれる。同条はまた、禁止される使用態様として、当該表示を商品又はその包装に付する行為、広告、販売、当該表示を付した商品の輸入等を明示している。
不正競争に基づく主張を認容させるためには、権利者は、(a) 当該包装の先使用、(b) 当該包装が広範かつ継続的に使用され、需要者に知られていること、及び (c) 競合他社による模倣が商品の出所について需要者に混同を生じさせるおそれがあること、を立証する必要がある。特に、科学技術省通達第11/2015/TT-BKHCN号19.1(d)項は「周知性・広範な使用」の立証として、広告実績、売上高、流通網、メディア掲載、消費者調査等、ベトナム国内における包装デザインの信用の蓄積を示す相当量の証拠を要求している。もっとも、どの程度の販売量や露出が十分と評価されるかについて法の指針は乏しく、新規参入者にとっては立証負担が重いのが実務である。一方で、市場での存在感を確立した後は、不正競争に基づく差止・制裁は強力な手段となり得る。
「実例—欧州系鎮痛薬の事案」
欧州の製薬企業は、名称及び包装配色が類似するベトナム製医薬品の存在を把握した。商標侵害の主張は、ベトナム側企業が類似名称を登録済みであったため奏功しなかった。トレードドレスの登録権利を欠く中、欧州企業は不正競争法に基づく救済を選択し、包装が広く使用され周知であることを立証するとともに、執行機関として科学技術省(MOST)検査機関を選定した結果、申立てから3か月以内に10万点超の侵害商品及び約400kgの包装用アルミ箔の廃棄命令が発出された。本件は、包装が信用を獲得している場合、行政手続による迅速かつ実効的な救済が可能であることを示している。
「著作権法 ― 迅速だが限定的な手段」
不正競争行為の救済とは別に、ベトナムの著作権法は「応用美術の著作物」として認められる包装デザインを保護し得る。ベトナム法は「応用美術の著作物」を著作物の一種として認めており、色彩、模様、グラフィック等に独創性を有する包装デザインは、応用美術として登録することができる。要求される創作性の水準は比較的低く、「当該分野の通常の知識を有する者が容易に創作できない程度」であれば保護対象となり、単なる機能的・凡庸な表現でない限り保護が及ぶ。
著作権登録は手数料が低廉で、登録証明書はおおむね2~2.5か月で発行される。登録証明書を取得することには、次のような実務上の利点がある。
- 立証責任の軽減:登録証明書は権利帰属の一応の証拠として機能し、権利者は創作の事実を改めて立証する必要がない。
- 専門機関による鑑定:登録証明書は、ベトナム著作権及び著作隣接権鑑定センター(ECCR)に侵害鑑定を申請するための前提要件であり、その専門意見は行政又は民事の手続における有力な証拠となる。ベルヌ条約加盟国の発行した登録証も、鑑定目的で認められる。
- 執行の法的根拠:ベトナムの当局は、登録証明書が提示されない限り、著作権侵害を理由とする措置に消極的である。そのため、登録は義務ではないものの、強く推奨される。登録された包装デザインについては、無断での複製・模倣が知的財産法第28条に基づく侵害となる。例えば、競合が許可なく同一又は実質的に同一のグラフィックや文字を印刷して箱を製造・販売する行為は、複製権および頒布権の侵害に当たる。権利者は民事上の救済(差止、損害賠償、侵害物の廃棄等)や、産業財産侵害と同様の行政制裁を求めることができる。重大な場合には、刑法第225条~第228条に基づく刑事責任を問われることもある。
- 先取りによる防御:早期の著作権登録は、第三者が同一包装を自己の著作物として登録し、執行を妨げる行為を防止する効果がある。
もっとも、著作権の保護はデザインの具体的表現――形状、色彩、配置等――に限られる。包装の出所表示機能までは及ばないため、競合がわずかな変更を加えて市場で混同を引き起こしたとしても、著作権侵害に当たらない場合がある。その場合、不正競争行為の構成が問題となる。したがって、著作権登録は商標または意匠登録を補完するものであり、これらの代替手段ではない。
「商標及び意匠の登録」
包装(又はその主要要素)を商標として登録すれば、同一又は類似の商品における類似標章の使用を排除する排他的権利が与えられる。包装が出所識別機能を果たす場合、商標登録が不可欠であり、著作権のみではその機能を保護できない。これに対し、意匠登録は、形状、線、色彩等からなる製品の外観が新規性を有し、工業上利用可能である場合に、その外観を保護するものである。
これらの登録は強力な保護手段を提供するが、ベトナムでは審査期間が長い。商標出願の審査は通常16~18か月以上を要し、その間に競合が類似包装を市場に投入する可能性がある。意匠登録も8~10か月を要する。しかしながら、登録が完了すれば最も強固な法的根拠となるため、時間を要しても取得する意義は極めて大きい。
「類似包装に対するエンフォースメント戦略」
【1】市場参入前に強固な権利ポートフォリオを構築する
早期かつ広範に出願すること。中国企業は商標のみに依拠すべきではない。ベトナムでの製品発売前に、次の措置を講じる。
- 製品名および特徴的な包装要素を商標として、必要に応じて意匠としても登録する。登録成立後は、トレードドレスに対する排他的権利の基盤となる。
- 包装のアートワークを「応用美術の著作物」として著作権登録する。低コストかつ短期間で所有権の即時的な立証手段を得られ、執行が容易になる。
- 模倣者による漸次的変更に備え、配色差し替え等、デザインのバリエーションも登録対象として検討する。
複数の権利を併用することで重層的防御が形成される。すなわち、迅速な対応には著作権、広範なデザイン保護には意匠、出所表示機能の保護には商標である。
【2】独創性および使用実績の証拠を保全する
不正競争に基づく主張の成功には、包装が商業表示として機能し、広範かつ安定的に使用されてきた事実の立証が不可欠である。したがって、事業者は次の対応を行う。
- 創作過程の記録:スケッチ、ドラフト、デザイナーとの往復書簡、日付入りファイル等を保存する。
- 使用実績の記録:マーケティング資料、請求書、流通契約、メディア掲載等を保管する。模倣出現前に当該包装がベトナム市場に存在したことの証拠が決定的となる。
- 市場監視:現地の販売代理店や消費者から類似品情報を収集する体制を整える。早期探知が迅速な執行につながる。
【3】競合が全面的にコピーした場合は著作権で速攻する
包装デザインが実質的にコピーされた場合、著作権は強力な武器となる。著作権登録証を提出のうえ、著作権・著作隣接権鑑定センター(ECCR)に侵害鑑定を申請する。鑑定が複製を確認すれば、ベトナムの執行当局は侵害品の押収や行政罰の賦課を行い得る。ECCR 鑑定を伴う著作権侵害案件は、地方の市場管理当局でも機動的に取り扱われ、実務上、迅速・効率的であることが多い。さらに、競合他社が貴社包装を先に著作権登録した場合でも、先創作に基づきその有効性を争うことが可能である。ただし、著作権登録は申請人の申告に依拠する側面が大きいため、悪用防止の観点からも早期出願が望ましい。
【4】全面コピーではなく「混同」を生じさせる改変には不正競争で対応する
模倣者は著作権責任を回避するために細部を改変しつつ、全体的外観を維持することがある。この場合に活用すべきは不正競争法である。権利者は科学技術省検査機関(MOST Inspectorate)その他の権限当局に対処を申立てることができる。成功可能性を高めるため、以下を実施する。
- 不正競争事案の取り扱い経験が豊富な執行機関(例:科学技術省検査機関)を選定する。欧州系医薬品の事例では、同機関の選択が迅速解決に資した。
- 包装が信用(グッドウィル)を獲得していること、並びに相手方デザインが需要者の混同を惹起することを、客観的資料で提示する。
- 国家知的財産庁(NOIP)に混同可能性に関する専門意見を依頼する。法的拘束力はないが、執行判断を左右することが少なくない。
- 手続は比較的長期化し得ることを織り込み、消費者認識の立証に時間を要する点を想定して準備する。
【5】重大事案では民事訴訟や刑事罰も選択肢とする
侵害行為が重大な損害をもたらす場合、または故意の偽造が関与する場合には、損害賠償等の民事訴訟や、政令第99/2013/ND-CP(およびその改正)に基づく刑事手続の活用が相当である。登録商標(包装を含む)の偽造は、最大5億VND(約2万米ドル)の罰金や最長3か月の生産停止の対象となり得る。サイゴンビール事件では、元従業員が「Bia Saigon Vietnam」の包装を作成し、商標登録前に製造発注を行った。調査の結果、当局はその商標出願を拒絶し、会社を起訴、裁判所は3.7億VNDの罰金を科した。当該事例は、刑事罰の抑止効果と、内部統制を整備して内部者によるブランド資産の不正流用を防止する必要性を強調するものである。
実例と示唆
事件 | 主要事実 | 教訓 |
欧州系鎮痛薬事件(2015年) | ベトナム製医薬品が、著名な欧州系鎮痛薬と類似する配色・デザインの包装を使用。商標侵害の主張は、現地競合が自社商標を登録済みであったため認められず。権利者は不正競争法を主張し、科学技術省(MOST)検査機関が権利者側の主張を認容、侵害商品の廃棄を命じた。 | 登録権利がなくとも、包装が広く知られていることを立証できれば、不正競争法により「類似」包装の排除が可能。適切な執行機関の選定と、十分な立証資料の準備が成功の鍵。 |
深圳のオーラルケア企業 対 広州の競合(中国事例) | 深圳の企業が歯みがき粉の包装デザインを著作権(応用美術)として登録。類似包装を用いた広州の製造・販売業者を提訴。東莞の裁判所は著作権侵害を認定し、販売差止、RMB 6 millionの損害賠償、さらに証拠妨害に対する被告への罰金を命じた。 | 中国の事例ながら、包装保護における著作権の有効性と高額賠償の可能性を示す先例。ベトナムにおける中越間の紛争でも、当該趣旨の先例が当局・裁判所の判断に影響し得る。 |
「Bia Saigon(サイゴンビール)」偽造事件 | SABECO社の元従業員が「Saigon Vietnam Beer」を出願し、名称・包装が類似するビールを製造。当局は出願を拒絶し、当該者を起訴。裁判所は当該会社にVND 3.7 billion(3,700,000,000 VND)の罰金を科した。 | 商標を早期に出願し、従業員管理を徹底すべき。商標・包装の偽造や不正流用が関与する場合、当局は厳格な罰則を科し得る。早期の権利化と内部統制が抑止力となる。 |
QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney
PHAN, Do Thi | Special Counsel
HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney
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