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カンボジアにおける商標権行使:経済警察の介入により解決したカフェロゴ紛争

カンボジアで発生したあるカフェロゴ紛争は、商標権侵害が必ずしも登録商標の完全な複製を要件とするものではないことを示しています。ロゴのデザイン、店舗看板、および全体的な商業的印象が、同一のサービス分野において混同を生じさせるおそれがある場合、商標権者は権利行使を行うことができます。本件では、カンボジアにおける「MEGA COFFEE / MGC」ロゴ商標の権利者である MGC Global Co., Ltd. が、証拠収集、警告書(Cease-and-Desist Letter)の送付、経済警察への申立て、そして最終的には侵害標章の使用停止および撤去に関する書面による誓約の取得という段階的な権利行使戦略を採用しました。

背景

MGC Global Co., Ltd.(旧社名:ANNHOUSE CO., LTD.)は、第43類(カフェ、レストランおよび飲食サービス)について、「MEGA COFFEE / MGC」ロゴ商標に係るカンボジア商標登録第95262号を保有しています。

本件紛争は、カンボジアで「COFFEE MASILAE SHOP」の名称で営業するカフェが、MGC Global の登録商標と完全に同一ではないものの、全体として類似した印象を与えるロゴおよび店舗看板を使用したことに端を発しました。問題となったのは、「coffee」という語の使用そのものではありません。同語はカフェサービスにおいて記述的な語だからです。むしろ問題となったのは、図形要素、書体、配色、および市場において実際に使用された店舗看板の視覚的効果を含む、標章全体の表示態様でした。

この点は、飲食業界において特に重要です。消費者は商標を構成要素ごとに分析して認識するとは限りません。実際の商取引の場面では、とりわけ街頭のカフェ看板やSNS上でブランドに接した際には、ブランド全体の外観や印象によって認識が形成されることが少なくありません。

法的争点

本件の中心的な法的争点は、被疑標章が登録された MGC ロゴ商標を完全に複製したものではないとしても、商標の出所について混同を生じさせ、又は両者に営業上の関連性があるとの誤認を生じさせる程度に類似しているか否かという点でした。

商標権行使においては、両標章が同一であるか否かのみを比較するだけでは十分ではありません。後から使用された標章が登録商標の重要な視覚的要素を模倣又は再現し、特に同一又は類似の役務について使用されることにより、全体として混同を招く商業的印象を形成する場合には、商標権侵害となる可能性があります。

本件では、双方ともカフェおよび飲食サービス分野で事業を営んでおり、このことが混同のおそれを著しく高める要因となりました。同一のサービス環境において二つの標章が使用される場合には、ロゴの構成、配色、書体、店舗表示全体の態様における類似性は、それぞれの要素を個別に比較する場合以上に重要な意味を持つことがあります。

権利行使戦略

商標権者は、直ちに裁判手続を開始するのではなく、段階的な権利行使戦略を採用しました。

まず、被疑標章の実際の使用状況に関する証拠を収集・整理しました。これには、店舗外観の写真、営業において実際に使用されているロゴ、カフェの所在地、および提供されているサービスの内容に関する資料が含まれていました。この段階は極めて重要でした。なぜなら、執行当局は、被疑標章が市場においてどのように使用されているかを確認する必要があり、単なる抽象的または個別的な標章比較だけでは十分ではないからです。

次に、カフェ運営者に対して使用停止警告書(Cease-and-Desist Letter)が送付されました。これにより、侵害が疑われる当事者には、行政当局が直ちに介入することなく、自主的に争点となっている標章の使用を中止し、友好的に紛争を解決する機会が与えられました。多くの場合、警告書の送付は、権利者が合理的かつ相当な方法で権利行使を行ったことを示す証拠にもなります。

しかし、侵害が疑われる当事者が協力を拒み、争点となっている標章の使用を継続したため、商標権者はカンボジア経済警察に正式な申立てを行い、対応を次の段階へと進めました。この措置は、侵害標章の継続使用を停止させ、より実効性のある執行結果を得るために必要なものでした。

進展および結果

事件記録を精査した後、2026年7月1日、カンボジア経済警察は COFFEE MASILAE SHOP に対し現地立入検査を実施しました。

調査の過程において、執行当局は MGC Global Co., Ltd. が当該登録商標のカンボジアにおける適法な権利者であることを確認しました。また、登録された MGC ロゴ商標との類似性および同一のカフェサービス分野で使用されていることを踏まえ、当該標章の使用は商標権侵害に該当する可能性があることをカフェ側代表者に説明しました。

現地調査終了後、カフェ側代表者は書面による誓約書に署名しました。この誓約書において、カフェは侵害標章の使用を中止するとともに、すべてのロゴ、店舗看板、広告看板、販促資料その他の侵害表示を撤去することに同意しました。また、2026年7月15日までに撤去作業を完了し、その実施結果を経済警察へ報告し、追跡確認を受けることにも同意しました。

その結果、本件は直ちに裁判手続へ移行することなく解決されました。さらに重要なことに、商標権者は執行当局の関与を通じて、侵害者から正式な書面による履行誓約を取得しました。これにより、権利者は誓約内容の履行状況を継続的に監視するとともに、侵害者が誓約を履行しない場合には、さらなる法的措置を講じるための実務上の明確な根拠を得ることができました。

本件から得られる示唆

本件は、ブランドオーナーおよび知的財産実務家にとって、いくつかの実務上有益な教訓を示しています。

第一に、商標権侵害は必ずしも登録商標の完全な複製を必要とするものではありません。カフェ、レストラン、飲食サービスといった分野では、標章が与える全体的な商業的印象が判断の決め手となる場合があります。文字部分が異なっていても、視覚的な表現全体が保護された商標と紛らわしい印象を与える場合には、侵害のリスクは当然に排除されるものではありません。

第二に、権利行使に先立ち、十分な証拠を収集することが重要です。店舗看板、メニュー、広告資料、SNSページ、営業場所、および実際にサービスが提供されていることを示す証拠は、申立ての裏付けを大きく強化します。十分に整理された証拠資料は、執行当局が侵害を認定し、迅速に措置を講じる上で大きな助けとなります。

第三に、警告書は有効な権利行使手段ですが、終わりのない交渉に発展させるべきではありません。侵害者が協力を拒否する場合には、侵害行為を速やかに停止させるとともに、商標の識別力がさらに希釈されることを防ぐため、適時に次の執行段階へ移行することが必要となる場合があります。

最後に、書面による誓約書の取得自体が、価値ある執行成果となり得ます。多くの商標事件において、権利者の当面の商業的目的は損害賠償の獲得ではなく、侵害行為を速やかに停止させることにあります。執行当局の関与を通じて取得した書面による誓約は、権利者に対し、その履行状況を監視し、履行を求めるとともに、侵害者が再度侵害行為を行った場合又は誓約を履行しない場合に、さらなる法的措置を講じるための明確な根拠を提供します。

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