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同一出願日・同一商標:ベトナムにおける解決メカニズムと企業の対応指針?

実務上、全く無関係な二者が、同一または類似の標章について同一の商品・役務を指定して出願することは珍しくなく、ときには同一日に出願がなされることもある。一見すると偶然の一致にすぎないように見えるが、ここには興味深い法的問題が潜む。すなわち、両出願が出願日要件を同等に満たす場合、いずれが優先権を有するのか。いずれが商標の適法な権利者となるのか、という点である。

稀な事例として、KENFOX IP & Law Office の依頼者である Eurotek Vietnam Lubricants Co., Ltd.(Công ty TNHH Dầu nhớt Eurotek Việt Nam)は、2020年5月26日、「(SUPERTOP、図形)」商標について第4類「潤滑油・エンジンオイル」を指定して出願した。2023年7月、ベトナム知的財産庁(IPVN)は、同一日である2020年5月26日に、TLT Spare Parts Production and Trading Co., Ltd.(Công ty TNHH Thương mại Sản xuất Phụ tùng TLT)名義で同一商品を対象とする「SUPERTOP」商標の出願が存在する旨を通知した。両出願が実体審査段階に入るに及び、問題は「どちらが先に出願したか」ではなく、「いわゆる『先願者』が存在しない状況を法制度はいかに処理するのか」へと転化した。

核心的法理:先願主義が決定的でない場合

ベトナムの知的財産制度は厳格に「先願主義」に従う。同主義は、同一の商標・同一又は類似の商品・役務について、より早く出願した者に登録の優位を認めることにより、優先関係を画定するものである。しかし、同一商標について同一日に二つの出願がなされた場合、いずれも他方に先行していない以上、先願主義のみでは勝敗を確定し得ない。

このような場合、IPVNは直ちに一方を「相応しい権利者」として裁定する「仲裁者」の役割を当然に引き受けるものではない。むしろ、制度設計は、公平性および透明性を担保するとともに、当事者間の合意(和解)により自発的に紛争を解決することを積極的に促す方向で構築されている。

「相互引用」:法が当事者間の対話を要請する場合

IPVN(ベトナム知的財産庁)の審査官が、同一出願日に、同一又は混同のおそれのある商標について、同一の商品・役務区分で二つの出願が存在することを認定したとき、特別の手続が作動する。具体的には、IPVNは以下のとおり「相互引用(mutual citation/cross-citation)」メカニズムを適用する。

  • 各出願に対する独立の審査通知:各出願は標準の手続に従い個別に実体審査の対象となる。他方、各当事者に発出される「実体審査結果通知」には、相手方の出願が抵触する先願として引用され、これにより保護不適格(拒絶)の判断が示される。
  • 併行的な法的紛争の承認:相互引用により特異な法的行き詰まり(インパス)が生じ、各出願が相互に他方を遮断する状態が成立する。すなわち、いずれの出願も、他方の存在により許容され得ない。
  • 合意による紛争解決の要請:IPVNは一方的な裁定を下すのではなく、当事者が直接交渉し、解決策に到達することを促す。権限当局は中立的なコーディネーターとして機能し、登録可能性に向けた協議の機会を整える。

法的帰結 – 行政上の膠着:当事者が紛争の解決方法に関する書面合意を提出しない限り、いずれの出願も登録査定に進むことはできない。IPVNは、最終的に一件の出願のみの登録進行を許可する。

このため、商標権者が通常採り得る経路は次の二つである。

  • (A)単独権者方式:一方当事者が出願を継続し、他方当事者は自己の出願を取下げるか、又は当該出願(若しくは権利)を前者に譲渡する旨の合意を締結する。これは手続が簡明で迅速であり、一方に明確な商業的利益がある場合に好まれやすい。
  • (B)単一商標の共同所有方式:双方に権利維持の正当な理由がある場合、単一の統合出願を共同所有することで合意し、双方の名義を一件の出願に併記し、他方の出願は取下げる。この方式は商標の共同活用を可能にするが、長期的な協調関係と、権利・義務の明確な配分が不可欠である。

いずれの方式を選択するにせよ、当事者は速やかに正式な書面合意を作成し、IPVNに届出なければならない。所定期間内に合意が提出されない場合、当該紛争に係るすべての出願は、紛争未解決を理由として拒絶される。

本メカニズムが妥当とされる理由

「相互引用―当事者合意―単一の登録可能出願」というアプローチは、姑息的な技術的対処ではなく、法原則と登録制度の実務運用との精緻な均衡を体現するものである。

  • 先願主義の客観性の厳格維持:明文の優先根拠がない限り、知的財産当局は「使用の実績」や商業的展開の履歴を考慮しない。これにより、手続的公正が絶対的に担保される。
  • 事務運営の実効性と紛争予防:同一の商品・役務について重複的な権利付与を回避することで、登録後の紛争リスクを最小化すると同時に、当事者間の対話と主体的な紛争解決を促すインセンティブを形成する。

換言すれば、このメカニズムは、法制度の透明性・客観性を確保しつつ、当事者が善意とブランド戦略を示すための必要な「余地」を創出する。「勝者総取り」の結末を導くのではなく、双方の事業利益に整合した、相互に受け入れ可能な解決へ向けた交渉の機会を与えるものである。

商標権者への提言(実務対応)

上記の事態に適切かつ効果的に対処するため、商標権者は、以下の措置を主体的に講ずべきである。

  • 相手方との速やかな協議開始:相手方出願の引用を理由とする審査通知を受領した時点で、直ちに相手方出願人に連絡する。早期の交渉は、取下げ・譲渡・共同所有といった進路に関し合意形成が図られる可能性を高める。遅延は双方の権利喪失につながり得る。
  • 法的書式の標準化・整備:必要書式を予め準備すること(例:単独権者の指定(designation)又は共同所有契約書、取下げ書、譲渡契約書(該当する場合)、当事者間の合意を確認するベトナム知的財産庁(IPVN)宛ての公式通知文)
  • 共同所有を選択する場合の運用条項の明確化:品質管理、使用範囲、意思決定の仕組み、意見不一致時の解決手続を明確に定める。これにより、消費者の混同および内部紛争を未然に防止する。
  • 期限管理の徹底:交渉継続中であっても、両出願に係る審査スケジュール(応答期限、公報掲載日、第三者の異議申立期間等)を厳格に管理する。能動的なモニタリングは重要期限の失念を防ぎ、不利な手続的帰結を回避する。
  • 長期戦略の検討:多くの場合、単独所有は管理・商業化・権利行使(例:ライセンス付与、執行措置、将来の譲渡)の各面で有利に働く。共同所有は柔軟な暫定解となり得る一方、長期的には運用上のリスクを内包する。利害得失を慎重に衡量し、自社の長期的なブランド戦略に最も適合する選択肢を優先すべきである。

結論

同一出願日・同一商標という例外的状況においては、最も有効な対応は、迅速に行動し、IPVNの通知に対する応答期限の到来前に、戦略的な交渉を通じて紛争を解消することである。

前掲の事案においては、KENFOX IP & Law Office は Eurotek Company を代理し、「SUPERTOP」商標に関し TLT Spare Parts Production and Trading Co., Ltd. と交渉を行った。その結果、TLT は自己の出願を取下げ、これにより依頼者がベトナムにおいて当該商標の登録を確保するための法的経路が開かれた。

QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney

PHAN, Do Thi | Special Counsel

HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney

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