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ベトナムにおける特許出願手続の全体像

I. ベトナム知的財産制度の進化と戦略的出願原則

[Vietnam’s Evolving IP Regime and Strategic Filing Principles]

ベトナムの特許制度は、発明特許、実用新案(ユーティリティ・ソリューション)、および意匠に至るまで、技術的イノベーションを保護するための複数の手段を提供しています。本ガイドは、ベトナムにおける適格な知的財産法律事務所であるKENFOX IP & Law Officeが作成したものであり、利用可能な出願ルート、保護の種類、登録要件、手続の各段階、審査および不服申立手続、公式手数料、ならびに実務上の戦略的考慮事項を含む、ベトナムにおける特許出願手続の全体像を網羅的に解説しています。本ガイドは、ベトナム市場への進出を検討する日本企業を主な対象とし、現行のベトナム法令および実務運用に基づいて構成されています。

II. 基礎となる法制度および制度的枠組み

[Foundational Legal and Institutional Framework]

1. 適用される知的財産関連法令および国際条約

[Applicable IP Legislation and International Treaties]

ベトナムにおける知的財産保護の法的基盤は、主として2005年知的財産法に基づいて確立されており、同法は2009年、2019年および2022年に改正されています。特に2022年改正は、これまでで最も包括的な改正と位置付けられています。これらの法制度は、世界貿易機関(WTO)加盟国としての地位および知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)への遵守を反映し、国際的義務との整合性を確保することを目的として設計されています。

また、ベトナムは、パリ条約、特許協力条約(PCT)、マドリッド制度(商標)およびハーグ制度(意匠)といった主要な多国間・二国間の知的財産条約にも加盟しており、さらに、包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)、EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)(ならびにRCEP)など、知的財産に関する強固な章を含む自由貿易協定の締約国でもあります。

実務上の運用指針および手続の詳細は、政府令および省令(通達)によって定められています。現行の中核となる規定は、2023年8月23日に施行された政令第65/2023/ND-CP号であり、これは2022年改正知的財産法に基づく産業財産権および知的財産権執行に関する重要な規定を実施するものです(政令第103/2006号および政令第105/2006号の一部を置き換えるもの)。特許分野においては、PCT国内移行手続、国家安全保障審査/秘密発明、電子証明書の発行、ならびに医薬品販売承認の遅延に対する補償手続などが大幅に整備・高度化されています。
これを補完する省令として、2023年11月30日に施行された科学技術省通達第23/2023/TT-BKHCN号があり、同通達は、政令第65号に基づく産業財産権の確立および保護に関する申請様式ならびに詳細な手続フローを定めています。

2. IP VIETNAM(旧NOIP)の役割および代理人選任の義務

[The Role of the NOIP/IP VIETNAM and Mandatory Representation]

ベトナム知的財産庁(Intellectual Property Office of Vietnam:IP VIETNAM、略称IPVN、旧称NOIP)は、科学技術省(Ministry of Science and Technology)の下に設置された中核的な行政機関であり、産業財産権の出願受理、審査および権利付与を所管しています。ハノイに所在する本庁が、実体審査および権利証の発行を一元的に担当しています。

IPVNはまた、ホーチミン市およびダナン市に代表事務所を設置しており、これらの拠点は南部および中部地域の出願人に対して、出願書類の受理(PCT国内移行手続を含む)、方式審査および手数料の処理、登録事項の記録・更新手続、ならびに出願人対応・各種サービスを提供しています。ただし、実体審査は引き続き本庁において集中的に行われます。

非居住の外国出願人にとって、特許出願およびその後の手続(プロセキューション)を行うにあたり、ベトナムに登録された特許代理人または弁理士を通じてのみ手続を行うことが義務付けられている点は、極めて重要な基本要件です。この現地代理人の選任義務は、単なる形式的・行政的要請にとどまるものではなく、手続的適法性を確保するための実質的要件です。ベトナムの審査官は、方式面および事務的事項を非常に厳格に審査することで知られており、例えば、出願人の住所表記が提出書類間でわずかに不一致であるだけでも、拒絶理由通知(Office Action:OA)が発行される可能性があります。経験豊富な現地代理人に依拠することは、すべての出願書類がベトナム特有の要件に適合していることを確保し、また、審査官が各種データ項目に対して行う詳細な形式審査に適切に対応するうえで不可欠です。これにより、時間およびコストの両面で負担の大きい手続遅延を回避することができます。特に、翻訳期限が一切延長不可である点など、ベトナム制度特有の厳格なコンプライアンスポイントを管理するうえで、現地代理人は極めて重要な役割を果たします。

主要な手続期限については、細心の注意が求められます。PCT出願のベトナム国内移行期限は、優先日から31か月以内です。実体審査請求は、発明特許の場合は42か月以内、実用新案の場合は36か月以内に行う必要があります。もっとも、実務上は審査の遅延が生じることが多く、法定の18か月を大きく超え、権利付与までに3~4年を要するケースも珍しくありません。そのため、ASEAN特許審査協力(ASPEC)制度の活用や、外国庁における審査結果の援用といった審査促進手段を戦略的に利用することが極めて重要となります。さらに、特許明細書のベトナム語翻訳文を速やかに提出することは、交渉の余地のない法的義務であり、特許の有効性に直接かつ重大な影響を及ぼします。

III. 特許保護の種類および登録要件

[Types of Patent Protection and Eligibility Criteria]

1. 発明特許と実用新案の比較:保護範囲、存続期間および戦略的差異

[Invention Patent vs. Utility Solution: Scope, Term, and Strategic Differentiation]

ベトナムでは、技術的解決手段に対して、**発明特許(Invention Patent)および実用新案特許(Utility Solution)**という二種類の特許保護制度が提供されています。実用新案特許は、他国におけるユーティリティ・モデル制度に類似するものと位置付けられています。

両者の最も重要な相違点は、保護期間にあります。発明特許の存続期間は出願日から20年であるのに対し、実用新案特許の存続期間は出願日から10年です。ただし、一旦権利が付与された後における法的保護の形式的範囲については、両者は同等と扱われます

実用新案ルートは、出願人にとって重要な戦略的セーフティネット(フォールバック)として機能します。出願審査(プロセキューション)の過程において、出願人は、当初「発明特許」として出願した案件を「実用新案特許」へ、またはその逆へと相互に変更(コンバージョン)する柔軟性を有しています。この柔軟性は、発明特許に求められる高度な進歩性要件を満たさないと判断される一方で、実用新案に適用されるより低い要件を充足する場合に、実務上頻繁に活用されています。このような変更により、出願人は、全面的な拒絶に直面することなく、「公知でないこと(not common knowledge)」という比較的緩やかな基準の下で、迅速に権利保護を確保することが可能となり、このルートは実務上も数多く成功裏に利用されています

存続期間に関連する重要な手続上の相違点として、実体審査請求期限が挙げられます。発明特許の場合、最先の優先日から42か月以内に実体審査請求を行う必要がありますが、実用新案特許の場合は、これより短い36か月以内に請求しなければなりません。この短縮された期限により、特にPCTルートを通じてベトナムへ国内移行する出願人が実用新案ルートを検討する場合には、審査段階のより早期に戦略的判断を行い、必要書類を準備することが求められます。具体的には、PCT出願が31か月で国内移行する場合、実用新案特許については、国内移行後わずか5か月以内に実体審査請求を行う必要があるのに対し、発明特許の場合は11か月の猶予があります。この点は、現地代理人による迅速かつ的確な対応を強く要求する要素となります。

2. 特許性要件

[Patentability Criteria]

特許による保護の適格性は、主として以下の三つの要件によって判断されます。これらの要件のうち、特に創作性(発明性)に関する基準については、発明特許と実用新案特許の間で顕著な相違があります。

1:ベトナムにおける発明特許と実用新案特許の比較
[Table 1: Comparison of Invention Patent vs. Utility Solution in Vietnam]

項目Feature発明特許Patent for Invention実用新案特許Patent for Utility Solution
新規性要件(Novelty Requirement)絶対的新規性(全世界基準)絶対的新規性(全世界基準)
創作性の基準(Inventive Threshold)進歩性(当業者にとって自明でないこと)公知でないこと(より低い基準)
保護期間(Term of Protection)出願日から20年出願日から10年
実体審査請求期限(Substantive Exam Request Deadline)優先日/出願日から42か月優先日/出願日から36か月
出願種別の変更(Conversion Allowed)可(実用新案への変更、またはその逆)可(発明特許への変更、またはその逆)

[1] 新規性(絶対的新規性)(Novelty (Absolute)): 発明は、新規性を有していなければならず、すなわち、出願日または優先日前に、使用、文書による記載、その他いかなる形式によっても、世界のいずれの場所においても公に開示されていないことが求められます。
ただし、守秘義務を負う者のみに限定して行われた開示については、一定の例外として新規性を喪失しない場合があります。

[2] 進歩性(非自明性の要件)(Inventive Step (Non-Obvious Hurdle)): 発明特許においては、当該技術的解決手段が進歩性を有すること、すなわち、優先日前に公知となっている既存の技術的解決手段に基づいて、当業者が容易に想到できないものであることが要求されます。これに対し、実用新案特許については要件が緩和されており、当該発明が**単に「公知の技術でないこと」**を満たせば足りるとされています。

[3] 産業上の利用可能性 (Industrial Applicability): 発明特許および実用新案特許のいずれについても、産業上利用可能性を備えていることが必要です。これは、当該発明が製品の大量生産または製造に適用可能であること、あるいは、発明の対象となる方法を反復して実施し、安定した結果を継続的に得ることが可能であることを意味します。
ベトナムにおける審査実務上、産業上の利用可能性の審査は、新規性および進歩性の判断に先立って行われます

重要規定:グレースピリオド(Critical Provisions: Grace Period)

ベトナムは、**絶対的新規性(全世界基準)**を採用しています。ただし、ベトナム知的財産法は、新規性喪失に関するいくつかの例外を認めています。すなわち、出願前の早期開示によって新規性が損なわれるリスクを緩和するためのグレースピリオドが規定されています(知的財産法第60条)。

同法は、新規性に関して、発明に特有の三つのルールのみを定めています。

(i) 秘密開示 (Confidential disclosure): 発明が、守秘義務を負う限定された者のみに知られている場合には、当該発明は、未だ公に開示されていないものとみなされます

(ii) 12か月のグレースピリオド(一般原則)(12-month grace period (general rule)): 発明が、登録を受ける権利を有する者、または当該発明に関する情報を有する者によって、直接または間接に開示された場合であっても、当該開示日から12か月以内にベトナムにおいて特許出願が行われたときは、新規性を失わないものとされます。

(iii) 権限のない者または不適格出願人による誤った/無断の公 (Erroneous/unauthorized publication by the authority or an ineligible filer): 発明が、管轄知的財産当局による違法な産業財産出願または保護標章の公告、あるいは登録を受ける資格を有しない者によって行われた出願の公告を通じて公知となった場合には、新規性は失われないものとされます。

知的財産法第60条第3項および第4項に定めるこれらの例外規定の適用を受け、新規性喪失とみなされることを回避するためには、出願人は、当該開示に関する証拠書類を提出し、例外要件を満たしていることを立証する必要があります(科学技術省通達第23/2023/TT-BKHCN号第16条第5項(dd))。もっとも、同通達は、提出可能な証拠書類の種類を限定列挙しているわけではなく、開示の日時、内容および出所(プロヴェナンス)を特定でき、かつ、ベトナム出願日が知的財産法第60条第3項・第4項に定める12か月以内であることを立証するに足る証拠であることが求められています。

実務上、日本の特許出願人は、開示内容を示す日付付き資料(例:発表用スライド、録画データ、ウェブページのキャプチャ等)、登録を受ける権利者を特定し、第三者がどのように当該情報を取得したかを説明する宣誓書または陳述書(該当する場合)、ならびにベトナムにおける出願日が当該開示日から12か月以内であることを示す証拠を提出することが望まれます。

実務上の事例 [A real-world example]

タイの特許出願人が、ベトナムにおいて複数の特許出願を行いましたが、インドネシアで先に出願していた特許出願について優先権主張を行っていませんでした。これに対し、ベトナム知的財産庁(IP Vietnam)は、当該ベトナム出願がインドネシアで開示された内容と実質的に相違しないとして、拒絶理由を通知しました。

当該タイ企業による合計38件の系列出願の一部である複数のベトナム特許出願が、同一出願人によって先に提出されたインドネシア特許出願を理由とする新規性欠如を理由とした拒絶理由通知 (Office ActionsOas) に直面しています。これらのベトナム出願では、インドネシア出願に基づく優先権が主張されていなかったため、ベトナム出願日よりも先行するインドネシア出願の公開日が先行技術(prior art)として引用されています。

ベトナムにおける担当審査官との協議によれば、知的財産法第60条第3項および第4項、ならびにCPTPP協定第18.38を根拠として、これらの拒絶理由を克服することは極めて困難であるとの見解が示されています。

検討された一つの対応戦略としては、インドネシア出願の公開が違法であったこと(例えば、法定で認められていない時期に早期公開されたこと)を示す証拠を提出し、かつ、当該手続上の瑕疵がなければ、公開日はベトナム出願日と同日またはそれ以降となっていたはずであることを立証する方法が挙げられました。これが認められた場合、2023年改正ベトナム知的財産法第60条第4項に基づき、インドネシア出願の公開が先行技術として扱われることを阻止できる可能性があります。

想定され得る違法事由の例としては、以下のようなものが挙げられます(これらに限定されるものではありません)。

  • 必要な書類および手数料がすべて適法に提出される前に、当該出願が公開された場合
  • 所定の手続段階(例えば、受理通知の発行前、または出願日から法定の3か月期間経過前)を満たさない段階で、出願が公開された場合
  • その他、法令で定められた公開時期よりも早期に公開される結果となった、手続上または行政上の誤りが存在する場合

しかしながら、最終的に当該特許出願人は、これらの違法公開を立証するための十分な証拠を提出することができなかったため、ベトナムにおける特許出願を放棄する判断を下しました。

特許不適格の対象 (Excluded subject matter): ベトナム知的財産法は、以下の対象について特許保護の対象から明示的に除外しています。すなわち、科学的発見または理論および数学的方法精神的活動または事業活動を行うための計画、規則および方法コンピュータ・プログラム情報の提示純粋に美的性質のみを有する解決手段植物品種および動物品種本質的に生物学的な方法、ならびに人または動物に対する予防、診断および治療方法が含まれます(知的財産法第59条第1項~第7項). さらに、社会的道徳または公の秩序に反するもの、あるいは国防または国家安全に有害なものについても、特許付与は拒絶されます。

安全保障審査/先願主義(国内先行出願義務) (Security control / first filing): 防衛または安全保障に関わる技術分野においてベトナム国内で創作された発明については、出願人は、外国で出願する前に、ベトナムにおいて最初に出願するか、または所管当局の許可を取得する義務があります(知的財産法第89a条). 政令第65/2023/ND-CP号第14条および別表VIIは、当該手続および管理対象となる技術分野の一覧を規定しています。これを補完する科学技術省通達第23/2023/TT-BKH&CN号は、知的財産法第89a条に違反して出願された場合には、方式要件を満たさないものとして却下されることを明確にしています。さらに、知的財産法第96条に基づき、同条違反を理由として、既に付与された特許であっても無効とされ得る点には、特に留意が必要です。

 IV. 特許出願ルートおよび出願要件

[Patent Application Avenues and Filing Requirements]

1. 特許出願ルート [Patent Application Avenues]

ベトナムは、特許出願について複数の出願ルートを提供する国際条約の加盟国です。

  • 国内(直接)出願 (National (Direct) Application): 出願人は、ベトナム知的財産庁(Intellectual Property Office of Viet Nam:IP VIETNAM)に対して、直接特許出願を行うことができます。外国出願人は、通常、先行する外国特許出願を基礎として、パリ条約に基づく12か月以内の優先権主張を行います。出願人がベトナム国内に住所または営業拠点を有しない場合、ベトナムに登録された知的財産代理人を通じて出願を行うことが義務付けられており、これは外国企業にとって必須要件です。
  • PCT国内移行(31か月期限)(PCT National Phase Entry (31-Month Deadline)): 特許協力条約(PCT)の加盟国として、ベトナムは国際出願の国内移行を認めています。国内移行期限は、最先の優先日から31か月以内です。この期限までに、明細書のベトナム語翻訳文(発明の詳細な説明、特許請求の範囲〔原出願時のものおよび、該当する場合は補正後のもの〕、図面中のすべての記載テキスト、要約)を提出しなければなりません。
  • 安全保障審査/国内先行出願(該当する場合)(Security control / first-filing (if applicable)): 防衛または安全保障に関わる技術分野において、ベトナム国内で創作された発明については、知的財産法第89a条および政令第65/2023/ND-CP号第14条および別表VIIを遵守する必要があります。すなわち、外国で出願する前に、ベトナムにおいて最初に出願するか、またはベトナム起源のPCT出願を行う(もしくは事前に許可を取得する)ことが求められます。
  • ASEANおよびその他の国際制度 (ASEAN and Other Treaties): ベトナムは、ASEAN特許審査協力(ASEAN Patent Examination Co-operation:ASPEC)プログラムに参加しており、他のASEAN加盟国における調査・審査結果を活用することで、審査の迅速化を図ることが可能です。日本の出願人についても、対応するASEAN加盟国(例:シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、ブルネイ、ラオス、カンボジア)における関連出願が存在し、かつ、当該出願に関する調査・審査結果(Search & Examination Results)を提出できる場合には、本制度を利用してベトナム出願の審査促進を図ることができます.

ベトナムはまた、日本特許庁(JPO)および韓国特許庁(KIPO)との間で、特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway:PPH)の試行プログラムに参加しています。具体的には、JPOとのPPHはフェーズ4(2025年~2028年、年間200件)、KIPOとのPPHはフェーズ4(2025年~2028年、年間100件)として実施されています。

このため、外国出願人は、対応する日本または韓国の特許出願を行い、JPOまたはKIPOにおいて特許可能と判断された請求項が示された後、当該結果を基礎として、ベトナム対応出願についてIPVNに対しPPH申請を行うことで、審査迅速化の恩恵を受けることが可能です。

なお、中国とベトナムの間にはPPH制度は存在しません。

2. 出願要件:特許出願手続のステップ別解説

[Filing Requirements: Patent Application Procedure: Step-by-Step]

ベトナムにおいて発明特許または実用新案特許を取得するための手続は、準備および出願から、審査および権利付与に至るまで、複数の段階から構成されます。以下では、各段階における手続要件および主な期限を含め、ステップごとに解説します。

ステップ1:出願書類の準備

[Step 1: Preparation of Application Documents]

  • 技術内容の開示(明細書)(Technical Disclosure): 特許明細書は、**ベトナム語(必須言語)**で作成する必要があります。明細書には、発明の詳細な説明、保護範囲を画定する一又は複数の請求項、必要に応じた図面、および簡潔な要約を含めなければなりません。ベトナムでは、国内直接出願において外国語による初期出願は認められておらず、出願時に必ずベトナム語明細書を提出する必要があります。(PCT国内移行の場合には、PCT国際出願を、国内移行期限までにベトナム語へ翻訳して提出する必要があります).
  • 出願人/発明者情報 (Applicant/Inventor Information): 出願書に記載するため、発明者および出願人の氏名、住所および国籍を正確に収集する必要があります。記載内容の一貫性は極めて重要であり、書類間でのわずかな相違(例えば住所表記の差異)であっても、方式不備として指摘される可能性がありま.
  • 優先権書類 (Priority Documents): 外国出願に基づく優先権(パリ条約ルート)を主張する場合には、優先権基礎出願の認証謄本を準備する必要があります。これらの書類は、**ベトナム出願日から3か月以内(期限延長不可)**に提出しなければなりません。あわせて、出願人情報を確認するため、表紙の簡易なベトナム語翻訳を提出する必要があります.
  • 譲渡証書 (Assignment Documents): 譲渡証書は、ベトナム出願の出願人が優先権基礎出願の出願人と異なる場合、または出願人が発明者本人ではない個人である場合にのみ必要となります。(PCT国内移行の場合、優先権書類はWIPOにより管理されるため、国内移行時に譲渡証書を提出する必要はありません).
  • 委任状(POA(Power of Attorney (POA)): 外国出願人は、IPVNに登録された現地特許代理人を選任する必要があります。通常、公証を要しない委任状の提出が求められます. PCT国内移行の場合、出願時に提出していない委任状は、優先日から34か月以内(期限延長不可)に提出しなければなりません.国内直接出願の場合、委任状が出願時に未提出であると、IPVN2か月以内に提出するよう通知を発行します(1回に限り、さらに2か月の延長が可能)。もっとも、手続遅延を避けるため、出願時に委任状を提出することが推奨されます.
  • 安全保障審査(該当する場合)(Security Clearance (if applicable)): ベトナム国内で創作され、防衛または安全保障に関連する発明で、かつベトナム法人によって創作されたものについては、外国出願に先立ち、ベトナム国内で最初に出願する必要があります。これは、2022年改正知的財産法に基づく安全保障管理に関する特別要件です。本要件が外国出願人に直接影響するケースは多くありませんが、ベトナムで研究開発活動を行う企業は、この規制を十分に認識しておく必要があります。このような発明については、外国出願に先立ち、国内出願による安全保障審査を受けることが求められます。
  • 任意の先行技術調査 (Optional Search): 出願前に、新規性および進歩性に関する先行技術調査を実施することを検討することが推奨されます。これは法的義務ではありませんが、発明の特許性を事前に評価し、拒絶が見込まれる出願を回避することで、時間およびコストの節約につながる有効な手段となります。

ステップ2:出願の提出

[Step 2: Filing the Application]

  • 提出先 (Where to File): 特許出願は、ベトナム知的財産庁(IPVN)に提出します。提出方法としては、ハノイに所在する本庁、またはホーチミン市やダナン市などの地域事務所に対し、直接提出または郵送により行うことが可能です。また、IPVNが運営するオンライン電子出願ポータルを通じて電子出願を行うこともできます。オンライン出願を行う場合には、ベトナムの電子証明書および電子署名が必要となります。さらに、オンライン提出後30日以内に、原本書類の提出および公式手数料の支払いを対面で行う必要があります。この30日以内に書面提出および手数料支払いが行われない場合、当該オンライン出願は放棄されたものとみなされます
  • 出願要件 (Filing Requirements): 完全な特許出願には、以下の書類が含まれます。すなわち、出願書(出願人/発明者情報、発明の名称、国際特許分類(IPC)等の基本情報を含む)ベトナム語による明細書(発明の詳細な説明、特許請求の範囲、要約、図面)要約用図面(該当する場合)委任状(必要な場合)、および手数料支払いの証明書類です。出願書には、主張する優先権(出願日、出願番号、国名)を記載するとともに、IPC分類および要約に用いる代表図を記載する必要があります。これらの記載が欠落している、または不正確である場合、IPVNが職権で指定・補正を行い、その際に所定の手数料が課されます
  • 出願受理証 (Official Filing Receipt): すべての提出書類が要件を満たしている場合、IPVNは出願日および出願番号を付与します。
  • 適法な出願人(提出者)(Prescribed Filer): ベトナム国内に住所または事業所を有しない外国法人または外国個人は、自ら直接出願を行うことはできず、必ずベトナムに登録された知的財産代理人を通じて出願を行う必要があります。当該代理人が、IPVNとのすべての連絡および手続対応を担います。

ステップ3:方式審査

[Step 3: Formality Examination]

出願が提出されると、方式(予備)審査の段階に移行し、IPVNは、行政・形式要件への適合性(適切な様式、署名、分類、必要書類の有無等)を確認します。

  • 期間 (Duration): 法令上、方式審査は出願日から1か月以内に完了するとされていますが、実務上は数週間から数か月を要する場合があります。PCT国内移行出願については、多くの案件が31か月で国内移行するため、方式審査は、優先日からおおむね32か月前後に行われることが一般的です(早期審査を請求しない限り).
  • 方式不備通知 (Deficiency Notices): 方式要件に不備がある場合(例:ページ欠落、書式不備、委任状または手数料の未提出等)、IPVNは不備内容を具体的に記載した通知を発行します。通常、出願人には2か月の補正期間が付与されます。この期限は、1回に限り、さらに2か月の延長が可能です。所定期間内に不備が是正されない場合、方式審査段階で出願が却下される可能性があります
  • 受理決定および公告待ち (Acceptance and Publication Queue): 出願が方式要件を満たしている場合、または不備が適時に是正された場合、IPVNは正式受理の決定を行います。これにより、出願日が確定し、出願は公告段階へと進みます。
    出願人には受理通知が送付され、その後、出願内容は一般公衆に周知されるため公告されることになります。

ステップ4:出願の公告

[Step 4: Publication of the Application]

ベトナムの特許出願は、方式審査後、**産業財産官報(Industrial Property Official Gazette)**に公告され、第三者が当該係属出願の存在を知ることができるようになります。

  • 公告時期 (Timing): 国内直接出願(PCTを経由しない出願)の場合、公告は、優先日から19か月目の初め(優先権主張がない場合は出願日から19か月目の初め)に行われます。これは、実質的に優先日から約18か月後であり、国際的な標準と整合しています。方式受理がこれより遅れた場合には、受理日から2か月後に公告されます(いずれか遅い時点)。PCT国内移行出願については、既に国際公開されている場合が多いため、ベトナムでは国内移行受理日から2か月以内に速やかに公告されます。
  • 早期公告 (Early Publication): 出願人は、予定された公告日前であれば、いつでも早期公告を請求することができます。この請求がなされた場合、IPVNは、請求受理日(または方式受理日)のいずれか遅い日から2か月以内に公告を行います。早期公告は無料であり、暫定的な権利の発生を早める目的で、実務上有用な選択肢となります。
  • 暫定的権利 (Provisional Rights): 公告日以降、出願人は暫定的な保護を享受します。公告された特許出願がその後特許として登録された場合、出願人(特許権者)は、公告後から特許付与までの係属期間中に、当該発明を商業的に実施した第三者に対し、相当な補償金を請求することが可能となります(当該第三者が公告出願について通知を受けていたことが前提)。この点は、適時な公告が第三者に対する権利主張の重要な手段となることを示しています。

付与前異議申立手続(第112条および第112a条)

(Pre-Grant Opposition Procedure (Article 112 and 112a))

第三者が、ベトナムにおける特許出願について、自己の先行権利と抵触する、もしくは不利益を及ぼすおそれがある、または保護要件を満たしていないと考える場合、当該特許出願がベトナムの産業財産官報に公告された後、当該特許出願に対する専用権付与の可否について意見を提出することができます。

2022年改正ベトナム知的財産法は、係属中の特許出願に対して第三者が意見を表明するための二つの制度を認めています。すなわち、**(i)異議申立(Opposition)および/または(ii)第三者意見提出(Third-party Observation)**です。

  • 正式な異議申立 (Formal Opposition): 正式な異議申立とは、第三者が産業財産権登録出願の有効性に異議を唱え、法的根拠を提示して、当該保護標章の付与を拒絶するようIPVNに求めることができる行政手続をいいます。
    特許については、産業財産官報における公告日から9か月以内に、第三者は知的財産法第112a条に基づき、正式な異議申立を行うことが可能です。
  • 第三者意見提出(非正式意見提出) (Third party observation (Informal Observations)): 第三者意見提出とは、一般公衆が産業財産権登録出願に関する意見を提出し、IPVNが審査中の出願について判断を行う際の参考とする制度です。第三者は、公告日から特許付与の決定がなされるまでの間、発明の特許性(例:先行技術の提示)に関する書面意見をIPVNに提出する権利を有します。すなわち、異議申立の期限内に正式な異議を行うことができない場合であっても、第三者は、第三者意見提出制度を通じて、当該特許出願の登録適格性に関する意見を提出することができます。第三者意見提出は正式な異議申立ではありませんが、審査官が出願を審査する際の重要な参考資料として扱われます。

正式な異議申立手続は、IPVNにより、無効審判または不服申立に類似する能動的な法的手続として取り扱われます。IPVNは、異議申立人の主張を出願人に送付し、出願人には2か月の反論・意見提出期限が付与されます。IPVNは、当事者間の直接協議を促進する権限を有しており、最終的に異議申立を判断し、その結果を実体審査結果と併せて、異議申立人に通知します。

異議申立制度の正式化により、特許付与前の環境は、従来の受動的な審査から、潜在的に能動的な権利争いの場へと大きく変化しました。出願人は、公告日を単なる手続上の通過点としてではなく、積極的な法的防御が必要となる期間の起点として認識する必要があります。そのため、短期間である2か月の応答期限内に、法的主張および裏付け証拠を準備する体制を整えることが不可欠であり、異議申立を乗り越えること自体を、将来の権利行使に耐え得る特許の強度を検証するための重要な段階として位置付けるべきです。

異議申立が**特許を出願する権利(出願適格性)**に関する争いである場合、IPVNは、原則として、異議申立人に対し、当該権利帰属争いを裁判所に提起することを求めます異議申立人が、2か月以内に裁判所による「訴訟受理通知」をIPVNに提出した場合、IPVNは、裁判所の判決が下されるまで、当該特許出願の審査を中断します。その後、IPVNは、裁判所の判断に従って出願を処理します。一方、2か月以内に訴訟受理通知が提出されない場合には、異議申立は取り下げられたものとみなされ、特許出願は通常どおり審査が継続されます。

ステップ5:実体審査

[Step 5: Substantive Examination]

実体審査は、IPVNの審査官が**発明の特許性(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)**を評価する、特許手続における最も重要な段階です。

  • 実体審査請求 (Request for Examination): ベトナムでは、実体審査請求は別途の請求および手数料を要する制度となっています。請求期限は、発明特許の場合は最先の優先日(または出願日)から42か月以内、実用新案特許の場合は36か月以内です。 期限内に実体審査請求が行われない場合、当該出願は放棄されたものとみなされます。例外的に、**合理的な理由(一般に不可抗力または客観的障害と理解される事情)**がある場合には、最大6か月の期限延長が認められる可能性がありますが、必ずしも保証されるものではなく、相応の証拠提出が求められます。実務上は、期限徒過のリスクを回避し、かつ審査を早期に開始するため、出願時または出願直後に実体審査請求を行うことが一般的です。
  • 審査期間 (Exam Timeline): 法令上、実体審査が開始された後、IPVNは以下のいずれかの起算点から18か月以内に審査結果を通知することを目標としています。

√ 公告日(公告前に実体審査請求がなされた場合)

実体審査請求日(公告後に請求がなされた場合)

もっとも、実務上は審査滞留の影響により、審査期間は大幅に長期化することが少なくありません。出願から特許付与までに35年、またはそれ以上を要するケースも珍しくありません。IPVNは近年、審査官の増員や業務配分の見直し等により審査迅速化を図っていますが、出願人は依然として数年単位の審査期間を想定する必要があります

  • 審査内容 (Examination Process): 審査官は、出願が実体的要件を満たしているか否かを審査します。主な審査ポイントは以下のとおりです。

√ 特許適格性(保護対象性)(Patentable Subject Matter): 以下のような対象は、特許保護の対象外とされ、該当する請求項は拒絶されます。
例:単なる発見、数学的方法、精神的活動またはゲームのための計画・方法、事業方法、コンピュータ・プログラムそれ自体、情報の提示、純粋に美的な意匠、植物品種・動物品種、人または動物の治療・診断方法等。

√ 新規性および進歩性 (Novelty & Inventive Step): 発明は、先行技術と比較されます。ベトナムは絶対的新規性基準を採用しており、発明は出願日または優先日前に、世界のいずれの場所においても公に開示されていてはなりません(一定条件下で、出願人自身による開示について12か月のグレースピリオドが認められます)。進歩性とは、当業者にとって容易に想到できないことを意味します。
一方、実用新案については判断基準が緩和されており、「公知でないこと」または容易に観察可能な解決手段でないことが求められます。

√ 産業上の利用可能性 (Industrial Applicability): 発明は、何らかの産業または生産活動において製造または使用可能でなければなりません(本要件は、通常、比較的容易に満たされます)。

√ 発明の単一性 (Unity of Invention): 出願が、単一の一般的発明概念に基づかない複数の発明を含む場合、審査官は、一つの発明への限定および他の発明について分割出願の提出を求めることがあります。
(分割出願は、特許付与または最終拒絶決定前であれば、いつでも提出可能です。)

  • 拒絶理由通知(オフィスアクション)(Office Actions): 実体審査の過程で問題が認められた場合、IPVNは、拒絶理由通知(Office Action(「審査報告書」または「拒絶予告通知」とも呼ばれる)を発行し、指摘事項や要求事項を具体的に示します。一般的な指摘内容としては、特定の先行技術に基づく新規性・進歩性欠如、請求項の明確性欠如、許容されない請求項範囲、または形式的不備等が挙げられます。

出願人は、主張、反論意見、および/または請求項補正を含む包括的な応答書を提出しなければなりません。

√ 応答期限 (Response Deadline): 実体審査結果通知に対する法定応答期限は、IPVN通知日から3か月です。

√ 期限延長 (Extensions): 当該期限は、通常、さらに3か月の延長が可能です。

√ 再審査 (Re-examination): 出願人が拒絶理由を適切に反論した場合、出願は再審査されます。再審査期間は、初回審査期間のおおむね3分の2とされ、通常、応答提出日から46か月以内に結論が示されます。

最終結論に至るまでに、複数回の拒絶理由通知と応答の往復が生じることも少なくありません。

  • 戦略的補正および一部付与制度 (Strategic Claim Amendment and Partial Granting)

√ 原出願の開示範囲内での補正 (Amendment confined to original disclosure): 審査中の補正は、原明細書に直接かつ明確に開示された内容を超えてはならないとされています(知的財産法第115条). 科学技術省通達第23/2023/TT-BKHCN号は、補正または請求項が原開示を超えると判断される10の具体的事例を列挙・明確化しており、拒絶理由のみならず、特許付与後の無効理由ともなり得る点に注意が必要です.

√ 一部付与制度 (Partial granting of protection titles): 2022年改正知的財産法(第118条)により導入され、通達第23号により運用が開始された重要な制度として、許容可能な請求項について先行して特許を付与し、争点の残る請求項については引き続き審査を継続することが可能となりました。これにより、全請求項の確定を待つことなく、商業的に重要な範囲について早期に権利行使可能な特許を取得することが可能となります。

実務上の留意点 (Practice note): 原開示と整合する補正を行うにあたり、出願人は、通達第23号に基づき、外国庁の調査・審査結果を援用することで、IPVNにおける審査を効率化・迅速化することができます。

  • 迅速審査(審査加速)(Accelerated Examination):2023年末以降、ベトナムでは、外国庁の調査・審査結果を活用した特許審査加速制度が導入されています。通達第23/2023/TT-BKHCN号に基づき、出願人は、**対応する外国特許出願における審査結果(調査報告書および/または特許付与済み請求項)**をIPVNに提出することで、ベトナムにおける審査の迅速化を申請することができます。
    当該外国出願は、**信頼性のある特許庁(例:USPTO、EPO、JPO、KIPO、CNIPA等)**によるものであり、少なくとも1項以上の請求項が特許可能と判断されていることが必要です。ベトナム出願の請求項は、当該外国庁で許容された請求項と同一でなければなりません 

必要書類には、申請書、外国庁の拒絶理由通知または審査結果の写しおよびその翻訳、特許可能と判断された請求項およびその翻訳、ならびにベトナム請求項を一致させるための補正書が含まれます。これらの要件を満たす場合、IPVNは迅速審査を適用し、通常35年を要する審査期間を大幅に短縮できる可能性があります。他国ですでに特許が付与されている出願人は、本ルートの活用を強く検討すべきです。

ステップ6:特許付与、公告および維持

[Step 6: Grant, Publication, and Maintenance] 

  • 特許付与予定通知 (Notice of Intention to Grant): 審査官が出願を特許可能と判断した場合(またはすべての拒絶理由が解消された場合)、IPVNは特許付与予定通知(付与決定通知または保護受理決定とも称される)を発行します。この段階において、出願人は特許付与手数料および**第1年分の年金(維持年金)**を支払う必要があります。付与手数料(および初年度年金)の支払期限は、通知日から3か月以内であり、1回に限り、さらに3か月の延長が可能です。
  • 特許付与および公告 (Grant and Publication): 所定の手数料が支払われると、IPVNは特許証(付与証書)を発行し、特許付与の事実を産業財産官報に公告します。これにより、当該特許は国家産業財産登録簿に登録されます。現在、ベトナムでは、電子形式による特許証の発行が行われており、これは紙の証書と同一の法的効力を有します。この制度により、特許権者および関係当局は、オンラインで特許情報を容易に確認することが可能となっています。
  • 特許の存続期間および年金 (Patent Term & Annuities): 発明特許の存続期間は出願日から20、実用新案特許の存続期間は出願日から10です。特許を有効に維持するためには、毎年、年金(更新料)を支払う必要があります。第1年分の年金は、特許付与時に支払われ(第1年をカバー)、その後の年金は、付与日の周年日ごとに毎年支払期限が到来します。年金の支払が期限に間に合わない場合でも、6か月の追納期間が認められており、追納時には割増金が課されます。年金が支払われない場合、当該特許は支払期限日に遡って失効します。

ステップ7:拒絶対応および不服申立(再審査手続)

[Step 7: Handling Rejections and Appeals (Re-examination Process)]

すべての出願が特許付与に至るわけではありません。出願人が審査官の指摘を克服できない場合、IPVNは拒絶決定(出願拒絶)を発行することがあります。このような場合でも、出願人には以下の法的救済手段が認められています。

  • IPVNに対する再審査/不服申立(第1審)(Re-examination / Appeal to the IPVN): 拒絶決定を受領した日から90日以内に、出願人は、IPVN自身に対して第1審の不服申立を行うことができます。これは、知的財産庁による再検討を求める手続です。不服申立書には、拒絶理由に対する反論および/または補正内容を含める必要があります。IPVNは、当該不服申立を審理し、拒絶決定を維持するか、または取り消すかを判断します。
  • 監督官庁(科学技術省)への不服申立(第2審)(Appeal to Ministry (Second Instance)): IPVNに対する不服申立が棄却された場合、または法定期間内に判断が示されない場合、出願人は、IPVNを監督する**科学技術省(MOST)**に対して、2審の不服申立を行うことができます。当該申立は、IPVNの不服申立決定日、またはIPVNが判断を下すべき期間の満了日から30日以内に行う必要があります。MOSTは事件を審査し、最終的な行政判断を下します。
  • 司法審査(行政訴訟)(Judicial Review): 出願人は、拒絶決定を受領した日(または当該決定を知った日)から1年以内に、行政訴訟を提起することが可能です(2015年行政訴訟法第116条)。ベトナムの苦情申立法は、行政不服申立を経ずに、または途中で中止して、直接裁判所に提訴することを明示的に認めているため、出願人は行政ルートを省略することも可能です。2025年現在、ベトナムでは、ハノイおよびホーチミン市に知的財産専門裁判所の設置が承認されており、運用開始後は、IPVNの決定を争う訴訟は、これらの裁判所に提起されることが予定されています(従来のハノイ人民裁判所行政部での提訴に代わるものです)。最終的に、裁判所は、IPVNの決定を支持するか、または取消・変更するかを判断します。
  • 期間および実務上の留意点 (Timeline and Practice): 各当局が不服申立を処理すべき法定期間は定められています(例:IPVNは通常、第1審不服申立を数か月以内に処理すべきとされています)が、実務上は、判断までに相当な時間を要することも少なくありません。そのため、多くの出願人は、審査段階において審査官と積極的に協議し、正式な拒絶決定に至る前に問題解消を図ることを重視しています。なお、最終拒絶後における請求項の補正(たとえ減縮補正であっても)は、原則として不服申立を行わない限り認められません。したがって、不服申立手続は、追加の主張や証拠を提出できる重要な機会となります。

これらの手続に適切に対応するためには、経験豊富な現地特許弁理士の関与が極めて重要です。

一目で分かる主なタイムライン (Timelines at a glance)

以下の表は、主要な期限および期間を要約したものです。

手続段階 (Stage)期限/期間 (Deadline / duration)
外国優先権の主張(パリ条約)
(Claim foreign priority (Paris))
最先の優先日から12か月以内に出願
PCT国内移行
(PCT national phase entry)
国際出願日/優先日から31か月
方式審査に対する応答
(Formality examination response)
通知日から2か月1回に限り延長可
出願公告
(Publication of application)
優先日から19か月目、または受理後2か月のいずれか遅い時点(早期公告可
実体審査請求
(Request for substantive examination)
優先日から42か月(発明)/**36か月(実用新案)**以内
実体審査期間
(Substantive examination term)
公告日または審査請求日から18か月以内に審査結果通知
実体審査OAへの応答
(Response to substantive office action)
通知日から3か月1回に限り延長可
異議申立期間(付与前)
(Opposition period)
公告日から9か月
付与手数料の支払
(Grant fee payment)
付与予定通知日から3か月
年金(維持年金)
(Annual maintenance)
出願後第1年目から毎年支払

V. 手数料および費用

[Fees and Costs]

ベトナムにおける特許関連手数料は、他の多くの法域と比較して比較的低水準にあります。公式手数料は、財務省によって定められており、ベトナムドン(VND)建てで支払われます。もっとも、理解および比較を容易にするため、以下では、公式手数料(VND)を米ドル(USD)に換算した参考額を示しています。

発明特許/実用新案特許出願に関する主な公式手数料:

Filing a patent/utility solution application
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Filing an application for the 1st independent claim14.70
for each further independent claim (if any)8.00
for each specification page in excess of six (if any)0.40
2Claiming each priority right26.70
3Classification of invention for IPC (if any)4.50
4Publication of the application5.40
for each additional figure from 2nd one2.70
Substantive Examination
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Request of substantive examination, including search fee) for the 1st independent claim58.60
for each further independent claim (if any)58.60
for each specification page in excess of six (if any)1.50
Granting
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Grant of Patent for the 1st independent claim16.20
for each further independent claim (if any)4.50
for each drawing in excess of one2.70
for each specification page in excess of six0.50
21st year annuity for the 1st independent claim (it is required to be paid at granting)17.80
for each further independent claim (if any)17.80
Office Action
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Interview with examinerNo official fee
1Reporting Office Action/Allowance of applicationNo official fee
3Response to an Office Action

for formality examination

for substantive examination

 

No official fee

No official fee

4Request for an extension of term for filing a response5.40
Recordal / Amendment
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Change of name or address of applicant(s)│
inventor(s)│IP agent with publication
12.50
2Amendment to specification, claims or drawings12.50
3Amendment or change of name or address of patentee with the publication of one drawing17.90
Licensing/Assignment
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Assignment of a pending patent application12.50
2Assignment of a patent certificate21
3Registration of a license of a patent certificate26.40
Annuities
No.Items of workOfficial fees (USD)
12nd year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

35.50

17.80

23rd or 4th year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

44.40

26.70

35th or 6th year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

57.70

40.00

47th or 8th year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

75.50

57.70

59th or 10th year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

102.10

84.40

611th or 13th year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

133.20

115.40

714th or 16th year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

168.70

151

817th or 20th year for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

208.70

190.90

9Surcharge for annuity in 6-month grace period (per each independent claim, for each month overdue)0.50
Opposition / Appeal / Invalidation
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Filing an opposition for the first independent claim of a patent application

for each further independent claim (if any)

24.50

24.50

 

2Filing a patent appeal26.70
3Filing a patent cancellation request20.90
4Filing a patent invalidation request30.20
Converting / Dividing
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Filing a request for converting a patent application into a utility solution application and vice versa

for each further drawing for publication of the converted application

 

12.10

2.70

2Filing a divisional application from Vietnamese parent patent for the 1st independent claim

for each further independent claim (if any)

for each specification page in excess of six (if any)

78.70

 

66.60

1.90

Others
No.Items of workOfficial fees (USD)
1Obtaining a duplicate of patent certificate10.80
2Obtaining a certified copy of any documentsN/A
3Obtaining a certified priority documentN/A
4Request for expedited examinationN/A
5Request for examination according to PPH programN/A
Narrowing of scope of protection for the first independent claim

for each further independent claim (if any)

42.80

32

VI. 出願人のための戦略的考慮事項

[Strategic Considerations for Applicants]

ベトナムにおける特許出願戦略を策定するにあたり、以下の実務上のポイントおよびアプローチを考慮することが推奨されます。

  • 発明特許か実用新案かの選択 (Choosing Patent vs. Utility Solution)
    貴社の技術が根本的に新規で、顕著な進歩性を有する場合には、発明特許を選択することで、最大20の保護期間を確保できます。一方、発明が漸進的改良にとどまる場合や、進歩性要件の充足が難しいと想定される場合には、実用新案特許の方が取得しやすい場合があります(ただし保護期間は10)。

ベトナムの審査実務では、実用新案における「創作性 (inventiveness) の判断基準は、発明特許よりもやや低く設定されています。なお、当初は発明特許として出願し、進歩性に関する拒絶理由が生じた場合に、実用新案へ変更(コンバージョン)することで、権利保護を確保する戦略も有効です。

  • 特許と意匠の併用保護 (Combining Patent and Design Protection): 特許と意匠は相互に排他的な制度ではありません。製品が新規な機能的特徴独自の外観の双方を有する場合には、特許と工業意匠の両方を出願することを検討すべきです。
    特許は技術的側面を保護し、意匠は美的外観を保護するため、外観のみを模倣する模倣品(内部機構は異なる場合を含む)に対しても、より広範な保護を提供することが可能となります。
  • 国際戦略としてのPCT活用 (Use of PCT for International Strategy): ベトナム市場への進出を図る日本企業は、PCTルートを利用して複数国を効率的にカバーするケースが多く見られます。PCTルートを選択することで、ベトナム国内移行の判断までに31か月の猶予が得られ、事業性評価に有用です。もっとも、国内移行期限までにベトナム語翻訳を提出する必要がある点には十分留意し、翻訳作業に要する時間およびリソースを事前に確保して、直前のトラブルを回避すべきです(ベトナムでは、国内移行期限の延長や翻訳の後日提出は認められていません)。ベトナムが主要市場である場合には、**国内直接出願(または早期の国内移行)**を行い、早期公告および早期の実体審査請求を併せて行うことで、事業へのコミットメントを示すとともに、より迅速な審査結果が得られる可能性があります。
  • 早期の実体審査請求 (Early Request for Examination)
    : コストの繰延べが目的でない限り、実体審査請求を42か月の期限いっぱいまで待つことは一般に推奨されません。実体審査は、出願時または期限前であればいつでも請求可能であり、早期に請求することで、公告後速やかにIPVNによる実体審査が開始され、係属期間の短縮につながります。重要な出願については、可能な限り早期に審査請求を行い、審査手数料も前払いすることで期限徒過のリスクを回避することが望まれます。
  • 外国審査結果の活用による迅速化(PPH等)(Accelerating via Foreign Results (PPH)): 他国で実施された審査成果を積極的に活用してください。例えば、中国、日本、欧州、米国において同一発明について特許が付与された場合、ベトナムの制度に基づき、当該審査結果を提出することができます。この際、ベトナム出願の請求項を、外国庁で許容された請求項と完全に一致させる補正を行った上で、外国審査結果の利用申請を行う必要があります。IPVNは独自の審査を行いますが、信頼性の高い外国庁により新規性・進歩性が認められた請求項については、審査が加速され、直接的に受け入れられるケースも少なくありません。また、ベトナムは**特許審査ハイウェイ(PPH)**の試行プログラム(例:日本特許庁とのPPH)にも参加していますので、自社案件がPPHの適用対象となるかを確認することも有益です。
  • 複数発明に対する分割出願 (Divisionals for Multiple Inventions): ベトナム法では、**一出願一発明(発明の単一性)**が要求されます。出願に複数の独立した発明が含まれている場合、審査官は分割を求めます。分割出願は、特許付与前または単一性違反に対する応答期間内に適時提出し、優先日を維持するよう計画してください。戦略的には、初期明細書を、発明群として整理する、あるいは将来分割となり得るフォールバック構成を含めて起草することで、柔軟な対応が可能となります。
  • 拒絶理由通知(OA)への対応 (Responding to Office Actions): 必ず所定期限内(実体事項は原則3か月)に応答してください。必要に応じて1回の期限延長は可能ですが、過度な遅延は審査の長期化や放棄リスクを高めます。審査官は形式面も厳格に確認するため、ベトナム語翻訳の正確性、および氏名・住所・書誌事項の一貫性を確保し、不要な指摘を回避してください。現地特許代理人と緊密に連携し、審査官の指摘点を正確に把握したうえで、先行技術との差異および特許要件充足の理由詳細かつ構造化されたベトナム語の主張として提示してください。必要に応じて、裏付け証拠、専門家意見、比較表、実験データ等を添付すると有効です。主張では「約」「好ましくは」といった曖昧表現を避け、技術的特徴を明確に特定することが重要です。
  • 請求項の補正(Amend the claims): 請求項は、不明確点を解消し、新規性・進歩性の要点を強調するよう補正してください。審査中は減縮補正は可能ですが、拡張補正は認められません。単一性欠如が指摘された場合は、無関係な請求項を削除するか、分割出願を提出してください。
  • 外国調査・審査結果の活用 (Utilise foreign search results): 同一発明について、USPTOEPOJPOCNIPA等で付与・許容された場合、その調査・審査結果を提出してください。IPVNは外国結果を参照し、請求項を外国で許容された内容に一致させた場合、迅速審査が認められることがあります
  • 面談・ヒアリングの活用 (Request interviews or hearings): 審査官との対話は誤解の解消や解決の迅速化に有効です。ベトナム法は、異議点を協議するための面談を認めています
  • 不服申立か再出願かの判断 (Appeals vs. Refiling): 最終拒絶に直面した場合、不服申立の成功可能性を評価してください。不服申立は長期化することがありますが、価値の高い発明で、上位審で解消可能な争点がある場合には検討に値します。一方、時間的余裕があり、開示が早期公開されていない場合には、請求項調整や追加データを伴う再出願が有効な場合もあります。事案ごとに最適解は異なるため、ベトナム特許実務に精通した代理人の助言を得て、不服申立/再出願/(可能であれば)実用新案への転換を含めて判断してください。
  • グレースピリオドの活用 (Use of Grace Period): ベトナムでは、出願人(または出願人由来)による開示について12か月のグレースピリオドが認められています。過去1年以内に展示会や刊行物等で開示してしまった場合でも、当該開示日から12か月以内に出願すれば新規性喪失とはなりません。必要に応じ、許容類型に該当することを示す証拠の提出に備えてください。
  • 意匠出願戦略 (Design Application Strategy): 工業意匠では、同一の本質的特徴を共有する複数バリエーション(模様違い、軽微な形状差等)を1出願にまとめて提出することが可能です。これはコスト効率が高く僅かな改変を施した模倣品にも有効です。先願主義の下、意匠は早期出願が重要です。ファッション、家具、電子機器等、外観が重要な業界では、ベトナム意匠権は価値の高い資産となります。
  • 電子出願およびモニタリング (Digital Filing and Monitoring):
    : IPVNの電子出願・電子納付を活用して効率化を図りつつ、必要な紙書類の提出期限を必ず遵守してください。出願後は、IPVNの**産業財産デジタルライブラリ(IPLib)**で状況確認が可能ですが、更新遅延が生じることがあります。現地代理人であれば、より迅速なステータス確認が可能です。
  • 権利行使および事業化の計画 (Plan for enforcement and commercialisation): 特許付与後は、商取引契約、ライセンス、技術移転契約への記録を行ってください。市場監視を行い、侵害が疑われる場合には、行政・民事手段による対応を準備します。特許侵害に刑事救済は適用されません

関係政府機関 (Key Government Bodies): IPVNは、特許・意匠の出願、審査、付与、公告、ならびに譲渡・ライセンス記録、無効請求等の付与後手続を所管します。科学技術省(MOST)はIPVNを監督し、第2審不服申立を所管します。権利行使では、裁判所、監督官庁、税関、市場監視機関等が関与しますが、出願手続の窓口はIPVNです。必ず登録済みのベトナムIP代理人と協働し、手続・言語対応を円滑に進めてください

結論 [Conclusion]

ベトナムにおける特許保護は、適切な出願ルートの選択、厳格な方式要件および実体要件への対応、短い期限内での拒絶理由通知(オフィスアクション)への応答、手数料および年金の適時納付、ならびに不服申立および権利行使を見据えた計画といった、複数の段階にわたる対応を要します。周到な準備、早期出願、国際調査・審査結果の活用、そして現地代理人の起用は、いずれも極めて重要です。

また、発明特許と実用新案特許の相違点を正しく理解することで、出願人は各発明に最も適した保護形態を選択することが可能となります。

上記の手続および実務上のポイントを理解することにより、日本企業を含む外国投資家は、ベトナムにおいて自社の技術革新をより効果的に保護することができます。近年の法改正により国際基準との調和が進んだベトナムの知的財産制度は、特許および実用新案に対して堅固な保護を提供していますが、その成果を得るためには、手続規則の厳守と利用可能な制度の戦略的活用が不可欠です。

適切な計画と現地専門家の知見を活用することで、ベトナムにおける特許取得は、急成長する同国市場への事業拡大に向けた円滑かつ高い価値を有する投資となり得ます