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ベトナムにおけるビルダグリプチン特許の保護に向けたノバルティスAGの勝利

ノバルティスAGは、世界的な大手製薬企業であり、2型糖尿病治療において極めて重要な有効成分である「ビルダグリプチン」の特許権者である。ベトナムにおいて、本発明は特許第5529号として保護されている。その後間もなく、市場には真正品より著しく低価格の模倣医薬品が流通し、消費者の混乱を招いた。ノバルティスAGはこれを看過せず、広範な調査を実施した結果、同社の特許製品がベトナムにおいて重大に侵害されている事実が明らかとなった。

KENFOX IP & Law Office(以下「KENFOX」という)は、権利侵害・紛争対応の複雑案件における15年の助言・代理実績に基づき、「ビルダグリプチン」特許侵害事案のうち、行政的手続によるものと民事訴訟手続によるものの二件につき所見を提示する。これにより、特許権者が直面する課題を特定し、ベトナムにおいて特許侵害を有効に執行・処理するために必要な行動及び戦略を理解する一助とすることを目的とする。

侵害者の法的責任追及

初動調査により、Meyer – BPC Joint Venture Company(以下「メイヤーBPC社」という)が、有効成分ビルダグリプチンを含有する「Meyerviliptin」なる医薬品を違法に上市したことが判明した。市場実態調査を重ねて侵害証拠を収集した結果、ノバルティスAGは、特許侵害の責任主体を明確に特定するに至った。

ベトナム当局による介入を求める法的根拠を確立するため、ノバルティスAGは、ベトナム知的財産研究所(Vietnam Intellectual Property Research Institute、以下「VIPRI」という)に対し、特許侵害鑑定の申請を自主的に行った。提出資料の審査に基づき、VIPRIは、特許第5529号に関し知的財産権侵害を認定するに足る根拠が存在する旨の鑑定結論を発出した。

これら収集証拠およびVIPRIの鑑定結論を踏まえ、ノバルティスAGは、ベトナム科学技術省監察局(Inspectorate of the Ministry of Science and Technology、以下「科学技術省監察局」という)に対し、メイヤーBPC社による特許侵害の取扱いを求める申立てを行った。

科学技術省監察局(Inspectorate of MOST)による摘発

知的財産監察部(Inspectorate of Intellectual Property, IIP)は、Meyer – BPC Joint Venture Company(以下「メイヤーBPC社」という)の本社に対し査察を実施した結果、同社がノバルティスAGの特許を公然と侵害している事実を確認した。具体的には、同社は有効成分ビルダグリプチンを含有する「Meyerviliptin」ブランドの医薬品を「製造」し、ノバルティスAGがベトナムにおいて保護を受ける特許第5529号(「窒素位で置換された2-シアノピロリジン誘導体」)に係る権利を侵害したものであり、これは知的財産法第126条に該当する。これに基づき、同社は政令第99/2013/ND-CP号第13条第5項に従い行政制裁の対象となった。

査察において確認された特許権侵害品の数量は、Meyerviliptin医薬品324箱であり、その価額は324箱×120,000 VND/箱=38,880,000 VND(文字表示:三千八百八十八万ドン)である(内訳:2019年10月24日付メイヤーBPC合弁会社の報告書第237/2019/CV-LD号に計上された321箱および査察班が保管する3箱。単価は2019年9月30日作成の査察記録に基づく)。

8年間にわたる正義の追求:ノバルティスAG、特許侵害訴訟で勝訴

別件として、2023年10月、ホーチミン市高等人民法院はノバルティスAGが提起した特許侵害訴訟の控訴審を開廷した。本件は第一審および控訴審の二審を通じて8年に及び、最終的に特許権者の勝訴に帰結した。これに従い、控訴審判決において裁判所は次のとおり命じ、宣言した。

(i) 被告であるダット・ヴィ・フー製薬株式会社(Dat Vi Phu Pharmaceutical Joint Stock Company、以下「ダット・ヴィ・フー社」という)に対し、次の措置を命ずる。

  • 有効成分ビルダグリプチン50mgを含有する「Vigorito錠」の在庫一切、および当該侵害製品の製造・販売に使用された原材料を廃棄すること。
  • 保健省医薬品管理局における「Vigorito錠」の登録番号を取り下げ(抹消)ること。
  • 『Vietnam Journal of Pharmacy and Cosmetics(ベトナム医薬品・化粧品ジャーナル)』において、謝罪および訂正の公告を掲載すること。

(ii) 被告ダット・ヴィ・フー社が、ノバルティスAGの特許第5529号を侵害した事実を宣言する。

(iii) 被告ダット・ヴィ・フー社に対し、次の措置を命ずる。

  • 『Health and Life Magazine(ヘルス・アンド・ライフ誌)』において、原告に対する公の謝罪および訂正を連続3号にわたり掲載すること。

(iv) 被告ダット・ヴィ・フー社に対し、ノバルティスAGへの以下の金員の支払を命ずる。

  • 特許第5529号の存続期間中に生じた侵害による財産的損害として、500,000,000 VND(五億ベトナムドン)。
  • 訴訟費用(弁護士費用を含む)として、300,000,000 VND(三億ベトナムドン)。

医療分野におけるブレイクスルー製品の創出のため、研究・試験に多額の資金(数百万米ドル)と長年にわたる不断の創造努力が投下されている。各医療製品は、知性と汗と涙の結晶であり、数百万の患者の生命に対する「希望」を体現するものである。

しかしながら、かかる知的労働の成果は、模倣や特許侵害という行為により公然と「盗用」されている。これは単なる窃取にとどまらず、自己の発明に心血を注いだ科学者・研究者に対する最大級の不正義である。また、これは公衆衛生を「奪う」行為とも評価し得る。偽造品は、品質および治療有効性に重大なリスクを生じさせ、使用者に深刻な健康被害をもたらすおそれがある。さらに、特許侵害は特許権者に対し、金銭的損失、ブランドの信用毀損、並びに消費者の信頼低下という重大な損害を与える。

ゆえに、個人・組織のいかなる規模においても、特許侵害は容認され得ず、厳しく非難されるべきである。

ベトナムの知的財産法は、この種の侵害に対して厳正に臨む。同法の下では、知的財産権の保護に関し、行政的手段と民事的手段を併存させる「二元的」な執行メカニズムが確立されている。したがって、特許権者は、行政執行機関に対して侵害者の取締りと処分を要請できるのみならず、裁判所に対し、自己が被った損害の賠償を求める訴えを提起する権利を有する。換言すれば、ノバルティスAGは、ベトナムの裁判所に対し、侵害者に損害賠償を命ずる判決の言渡しを求めて請求することができる。

他方で、侵害調査、証拠収集、並びに法的手続の遂行には、特許権者にとって時間・費用・人的資源の面で多大な負担が伴う。よって、前記二件の事案における「正義の追求」の歩みは、単なる法廷闘争にとどまらず、特許権者の権利および正当な利益を保護し、また社会(コミュニティ)に対する責務を果たすという、ノバルティスAGの不退転の決意の証左でもある。

QUAN, Nguyen Vu | Partner, IP Attorney

HONG, Hoang Thi Tuyet | Senior Trademark Attorney